才能の向こう側へ ─紅嶺バスケ部、幻影のシューター─』
@akabeko8008
第1話 幻影の幕開け
📜【注意書き】
本作は、さまざまなバスケットボール漫画・アニメ作品から着想やインスピレーションを得て制作しています。そのため、登場する技や表現の中には、既存作品を彷彿とさせる描写が含まれる場合があります。
しかし本作はあくまでオリジナルの世界観・登場人物・ストーリーを基盤とし、独自の解釈・展開・成長ドラマを描いていく作品です。
「好きだからこそ、超えていく」──そんな思いで創り上げていますので、温かい目でお楽しみいただけると幸いです。
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春の風が、東京の街をゆるやかに吹き抜けていた。
桜の花びらが舞う坂道を、一人の少年がゆっくりと歩く。
神威みさきは、バスケットシューズを鳴らしながら、紅嶺高校の校門を見上げた。
「……ここからが本当の勝負だ。」
北海道選抜で三連覇を成し遂げた過去。
それは、もう“過去”に過ぎない。
全国の頂点に立つために――彼は新たな舞台へと足を踏み入れた。
⸻
体育館前の広場は、入学式を終えた新入生たちで賑わっていた。
その中に、ひときわ目を引く二人の姿がある。
一人は、爆発的な脚力を感じさせる快活な少年。
もう一人は、静かな存在感を放つ長身のセンター。
(……真堂蓮。白取悠真。)
名前も実力も知っている。
だが、これまで言葉を交わしたことは一度もなかった。
視線が交わっては、すぐに逸れる。
どこか張りつめた空気が、三人の間に流れた。
⸻
「――静かに! 入部説明、始めるわよ!」
体育館の中は、入部希望者でごった返していた。
昨年、紅嶺が全国大会で準優勝した影響で、例年の倍近い新入生が押し寄せているらしい。
「紅嶺に入れば全国行けるって話、やっぱ本当なんだな!」
「エースの座は俺がもらう!」
浮き足立つ声があちこちから聞こえる中、みさきは黙ってストレッチを続けた。
「紅嶺は奇跡で勝ったんじゃない。本気で全国を獲りにいった結果だ。」
キャプテンの東雲隼人が声を張り上げる。
「本気のやつだけが残れ!」
その声に反応するように、ゴール下で黙々とジャンプを繰り返す大柄な新入生がいた。
額に汗を浮かべ、気合のこもった目でリングを睨んでいる。
「……絶対に負けねぇ。あいつらになんて、絶対に。」
パワーフォワードの熊谷大地だ。
技術は未熟、ドリブルもシュートも得意ではない。
だが、リバウンドにかける執念だけは誰にも負けないと自負していた。
⸻
「じゃあ、1年生同士で紅白戦をやってもらうわ!」
監督の桐島綾の声で空気が変わる。
いよいよ本番だ。
赤チームは、みさき・真堂・白取、そしてPGの田嶋とSFの三浦。
白チームは村瀬、岡野、佐藤、森永、平山の布陣でスタートした。
笛が鳴り、ボールが舞う。
白取が静かにジャンプし、赤チームがボールを取った。
「みさき!」
田嶋からのパスを受け取った瞬間、みさきは一歩で角度を作り出し、迷いなく放つ。
――シュッ。
「……入った。」
「リリースが早ぇ。迷いがない。」
次の攻撃でも、みさきは淡々と動いた。
スクリーンを使い、相手の視線をずらし、誰よりも早く“打てる場所”にいる。
そしてまたシュートを放つ。
――シュッ。
――シュッ。
気がつけば、4本連続で沈めていた。
「止まらねぇ……」
「ダブルチームだ! 二人で潰せ!」
村瀬と岡野が二重にマークに来る。
だが、みさきは焦らない。
無理に突破せず、コート全体を見渡しながら冷静にボールを捌く。
「……来た。」
真堂が一瞬の隙を見つけ、爆発的な加速で切り裂く。
佐藤が反応するも追いつけない。
「嘘だろ、速すぎる!」
空中で体勢をねじり、華麗なDouble Clutch。
リングをかすめるようにボールが沈んだ。
「脚力だけじゃない。空中であんな余裕、普通はねぇ。」
次はゴール下。
白取がポジション争いで体をぶつけられるが、押し返さず“ずらす”だけ。
着地の一瞬前には、もうボールの落下点を取っている。
「……うわ、入る隙がない。」
「力で勝ってない。全部“読み”で勝ってる。」
彼のスクリーンも同様だった。
体をぶつけるのではなく、相手の進路を“いなす”ように妨害し、真堂のレーンを広げる。
「柔のセンター……なるほどな。」
スコアはじわじわと赤チームに傾いていった。
⸻
第2クォーター、白チームは熊谷を投入して勝負をかけてくる。
「リバウンドは全部、俺が拾う!」
熊谷は体当たり気味の守備でみさきに圧をかけ、白取に全力でぶつかっていった。
点は取れない。
それでも、ボールの軌道が見えれば迷わず飛び込む。
地面に叩きつけられても、立ち上がってまた跳ぶ。
「……根性だけはすげぇな。」
「技術はまだだが、心は本物だ。」
上級生たちも口を揃える。
その気迫は、確かに赤チームの空気を変えていた。
だが、白取は焦らない。
熊谷の勢いを“使う”ように位置を変え、着地の瞬間にボールを拾う。
そして静かにプットバック。
みさきはスクリーンの位置を指で示し、敵同士をぶつけさせて味方をフリーにする。
「……点は取ってないのに、点を作ってる。」
副キャプテンの伊崎が呟いた。
⸻
試合は白熱し、第4クォーター残り1分。
白チームが2点差まで迫る。
「ここで止めなきゃ終わりだ!」
タイムアウトで、みさきは短く指示を出す。
「ダブルは来る。ぶつけて空ける。真堂、最初の一歩、頼む。」
「了解。」
「センターは角度で止める。」
試合再開。
ダブルチームがみさきに襲いかかる。
「撃たせるな!」
しかし彼は撃たない。
スクリーンの指示だけを出し、白取がわずかに角度を変えて相手の足を止める。
真堂が矢のように突き刺さり、レイアップを沈めた。
「よし、4点差!」
残り18秒。
再びダブルチームが寄せる。
「絶対止める!」
みさきは一歩下がり、ステップバック。
ボールは美しい弧を描き、リングを揺らした。
――シュッ。
ブザーが鳴り響く。
69対63、赤チームの勝利。
⸻
「……新入生ってレベルじゃねぇな。」
「完成度が高すぎる。しかもまだ何か隠してる。」
先輩たちはざわついていた。
コートの片隅、熊谷が膝に手をつき、汗を垂らしながら三人を睨む。
「……今日は負けた。でも、次は勝つ。リバウンドは全部、俺が取ってやる。」
みさきは短く頷き、真堂は黙って親指を立てた。
白取も静かに会釈する。
互いに言葉はなかった。
だが、それ以上のものが、確かに伝わっていた。
この日、紅嶺高校バスケットボール部に“新たな時代”が生まれた。
それは、誰もがまだ知らない――“幻影”の幕開けだった。
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