ナツと真央

@nana-yorihara

第1話 出会い

 「大人になったらあたし、おばあちゃんの服を売るお店を作るよ」

 四歳の夏香は、縫ってもらったばかりのスカートをひらっと翻して言った。

「そうだねぇ、なっちゃんがお姉さんになるまでおばあちゃん頑張るね」

 縁側で微笑んでいた祖母は、夏香が中学生になった年に帰らぬ人となった。

 ひねくれている、理屈っぽくて小難しいと周囲から敬遠されていた夏香を唯一可愛がってくれた祖母だった。裁縫が得意でセンスもよかった祖母に影響されて、夏香はアパレル業界を志した。服飾専門学校を出て、数年務めたころには、自らブランドを立ち上げたいと思うようになっていた。母が女社長だったので、起業にも関心を持っていたのだ。

「最高のデザイナーを見つけて、女のコに愛されるトップブランドを作りたい」  そう願ってパートナーを探したものの、なかなかうまくいかなかった。夏香のきりきりした性格が、プライドの高いデザイナーとどうしてもぶつかってしまうせいもあったかもしれない。


「いっそ、あたしが自分でぜんぶやろうかな」

 デザインも学んだことがある夏香は、ある日ふらりと画材屋に立ち寄った。イーゼルにデッサン用の鉛筆に、絵の具の匂い。学生時代を思い出すような懐かしい雰囲気の店で、夏香は色鉛筆の棚を見ていた。

「こんなきれいな色あるんだ」

 つぶやいた彼女は、ふと妙な気配を感じた。

 店内に並ぶ棚のうち、いちばん奥の画用紙の棚の角から、水色のトートバッグが覗いている。棚の向こう側にいる誰かが、不審な動きをしている。

 アクセサリーの店でアルバイトしていたこともある夏香は、店内でのあやしい動きに敏感だ。アクセサリー店では月に何度か万引き犯を捕まえていた。

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