第3話 借り
この七年で、私は生活に追い詰められ、とうとう借金をするようになってしまった。家賃が払えずに、初めて五万円の借り入れを申し入れたときは、すべてが終わったような気持ちになったが、気づけば十倍以上の額を借りている今はむしろ、何も感じなくなってしまっている。光に溢れたクリスマス、幸せそうな人の群れを遠く見て、「この中に借金がある人はいないのだろうな」などと考えることはあるけれど。もう、嘆いたってしかたないのだから、働く時間を多くするしかない。
「五万円を借り入れた」と言ったけれど、家賃が五万円なのではなく、その単位でしか契約できなかっただけだ。実際は、風呂もトイレもいっしょの狭いアパートに住んでいる。私には、これより上の生活は想像できない。この先を考えても、楽しいことは何ひとつ浮かんでこない。借金を返し終えること、くらいしか生存の目標はない。友達はいる、付き合っている人もいるけれど、明るい未来はどこにも描けない。親はこの先、定年退職を迎え、実家を頼ることは難しくなるどころか、介護などの問題も出てくるだろう。私も体力的に長時間労働が難しくなるだろうから、早く安定した職につかないとますます行き詰まるだろう。それでも、どんなに探し続けても、安定した仕事などにはなかなか巡り合えない。人間関係をはじめとした問題が立ちはだかる。それを「甘え」という人しかいないのも分かっているから、私は沈黙する。
これまでにいた職場のことを振り返ってみたけれど、私はあのときどうすればよかったのか、と考えても答えは出てこない。どの道を選んでも行き止まりの迷路みたいだ。人生というそこそこ長い時間は、行き止まりばかりの迷路だったのだろうか。 市場に出された肉の塊を値踏みするように私を見る面接官様と、困っているときにだけどさくさに紛れて殴りに来る世間様に、納得していただけるかは分からないが、私がこれまで出会ってきた事柄を振り返る。この世を不完全な天国だとするなら、これはその航海の、後悔の記録である。
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