第9話 対バン勝負、望むところです。

 ──そう。


 結論から言えば、如月久遠きさらぎくおんは俺、水瀬樹みなせいつきと同じ大学の同期だった。驚きよりも、またしても久遠の策略にまんまとめられた、という感じだ。くそっ。


 そもそも事の発端、諸悪の根源は全てこいつにある。一刻も早く久遠から離れなければ、俺の内に秘められた癖が目覚めてしま……いや、それ以上に男としての尊厳を失ってしまう危険性すらある。


 と頭では分かっているが、現状は常に最悪だったりする。




「──それで久遠さん、その方と新たなバンドを、ということかしら?」


 終業間近の閑散とした大学食堂にて、辛辣な声が飛び交う。


 暖房で熱気がこもる中、俺は見知らぬ四人の綺麗なお姉様方に囲まれたテーブル席で、これまた負けず劣らず美人な久遠の隣で、すっかり萎縮していた。


 どれほど室内が蒸し暑かろうと、もこもこコートと萌え帽子は脱げない。この状況で男バレしたら、全てが終わるのが目に見えている。まさに人生の岐路に立たされていた。


「そ、そうなんですよ、充希みつきさん。だから正式にバンドを脱退させてもらえますか。お、お願いします」


 久遠はしどろもどろしつつ、極めて礼儀正しく頭を下げた。こいつにもこんな真面目な一面があるのかと、驚きだ。


「脱退って、そんな我が儘が許されると思っているのかしら?」


 お姉様方の一人、充希さんと呼ばれたブランド服で身を固める巻き髪ロングヘアの女性が厳しい表情を浮かべる。他の取り巻きのような女性陣も同様だ。痛いほどの視線が俺に突き刺さる。正確には「女装した俺」に突き刺さっているのだが……うん、今すぐここから逃げたい。


「こ、この子の歌声、本当に素晴らしいんです。そ、それに樹ちゃんだって、私のギターを褒めてくれて……ね、ねぇ樹ちゃん、そうですよね?」


 久遠が俺の肩に手を置く。え、ここで俺に話を振る? ってか、こんな怖いお姉さんに俺の名前をバラすなよ、それこそ俺の大学生活が詰むだろうが。


「そそ、そうなんです……」


 とりあえず同意する。話さえ合わせておけば、後は久遠が何とかこの場を収めてくれる、ことを切に願う。


「ふーん。貴方の声って、そう特徴的だと思わないわ。それでその綺麗な歌声はどんな感じかしら、ちょっと今、わたくしたちに聴かせてくれない?」


 と願った早々、女王様、いや充希さんの矛先が俺に移る。まるで獲物を狙うかのような本気ガチな視線。


(……いやいやいや、そんな無茶な。ここでアカペラとか、なんの罰ゲームだよ。しかも今は女子として振る舞ってるんだから、地声で歌うわけにもいかないし……っていうか、今普通に素で喋っちゃったんだけど、男バレしてないとか、マジ? てか、そもそも男だって全然気づかれてないような──)


「み、充希さん、樹ちゃんは少々恥ずかしがり屋さんなんです。それに、ここで歌うのも場違いでは──」


 久遠が一応フォローらしきものを入れるが、充希さんは一歩も引かない。


「場違い? ここは講堂から離れているし、今は人も少ないわ。それに、貴方がそこまで言うこの子の歌声、わたくしたちにも聴く権利がなくて?」


 他の取り巻き……じゃなかった女性三人も同意し、俺を見る厳しい目がますます強くなる。


 完全に逃げ場なし。久遠に助けを求める視線を送るが、女王様が怖いのか、長身の身体を小さく丸めていた。


 という訳で、今までの話を統計すると、このお姉様方は、如月久遠が所属していたガールズバンド『アンリマユ』のメンバーと思われる。たしか久遠の話では、そこでボーカルを務めていたが、ライブ直前でクビになったと言っていた。でもどうやら話が食い違う。なぜ。


 まあ、そのことは後で久遠を問い詰めるとして、今はこの場をどう凌ぐかだよな。いくら周り人が少ないとしても、さすがに……それにたとえ恥を忍んで歌ったとしても、声で男バレ確定だし。うーん、悩みどころだ。


「何か歌えない事情があるようね、なんならここで歌うのは、そうね、勘弁してあげてもいいわ」

「え……本気、あ……いえ、ほんとですか?」


 久遠と一緒になって肩をすくめていたら、思わぬ朗報が飛んできた。


「充希さん、だったら……」


 充希さんの厳しい表情が少し和らいでいる。もしかして、この状況、打開できたのか?


「ただし、条件があるわ」


 出た、条件。


 どうせ、バンドものあるあるの対バン勝負、とか言ってくるんだろ? そんなお約束なんて要らない。


「今度、わたくしたち「アンリマユ」の公式動画の再生数を、貴方たちの新バンドで上回っていただけるかしら? もしわたくしたちが負けたら、正式に久遠さんの脱退を認める、それでどう?」


 斜め上の条件がきた! 対バンは対バンでも令和式にアップグレードされてた……。


「さ、さすがにそれは……」

「ええ、対バン勝負、望むところです。私たちもデビューは配信と決めていましたから」


 おい、久遠、お前何勝手に決めてんだ。つうか俺、お前とまだ正式にバンド組んでないし、そもそも関係なくないですか?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます! 


誠に勝手ながら、この『俺が歌姫』は現在作者がカクヨムコン11に参加中のため、一時休載中です。


連載再開の際には、ぜひまた『樹』と『久遠』の物語にお付き合いしていただけると幸いです。

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俺が歌姫、彼女は貴公子 〜男女逆転して配信始めました〜 乙希々 @otokiki

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