俺が歌姫、彼女は貴公子 〜男女逆転して配信始めました〜
乙希々
第1話 始まりの曲
ITUKI「──はーい、みんな! 『Mirage(ミラージュ)』のチャンネルへようこそ! ボーカルのITUKI(いつき)でーす。よろしくねっ!」
KUON「ど、どうも。ぎ、ギターのKUON(くおん)だ。この動画を視聴してくれてるみんな……感謝してる(ボソッ)」
ITUKI「ちょっとKUON、声ちっちゃい〜。もっとちゃんとみんなに挨拶しなきゃ!」
KUON「ご、ごめ……いや、悪かったな。でもみんな愛してるぜ(キラッ♡)」
ITUKI「もう、バカなの? じゃあ、早速いっちゃおっか! それでは聴いてください! わたしたち『Mirage』の始まりの曲──」
『見せかけのかわいいだっていいじゃん!』
作詞 ITUKI
作曲 KUON
編曲 Mirage
──見せかけのかわいい もう嫌だ
ルージュも マスカラも 本当のわたしじゃない
そんなこと わかってる
けどね
それでも自分を隠すの
見せかけだっていい
そう信じてる
小さな瞳も
薄い唇も
輝くことを 願ってる
だからわたし 今日も嘘つき
だって みんなで輝きたいじゃん──
──────────
─────
──
◇
「──おい水瀬、お前バンドをクビな」
舞台袖から響く轟音。機材の匂いが充満するライブハウスの楽屋。
開演まであと30分と迫ったそのとき、リーダー兼ボーカルの
「あはは……なんだよ急に、いきなり冗談キツいって……」
メンバーの視線を集めるなか、俺は新庄に言い寄る。
「てか俺、なんか悪い事したか? ライブ直前で言われても、困るっていうか、気になって演奏をミスるだろ」
「あーそれ自分で言う? ちなみに今回のギター、もう打ち込みで済ましてるから。機械はお前みたいにミスらないしな」
「……そ、それはそうだけど、でもさ」
「つーわけで、これ決定事項だから、悪いけど部外者は楽屋から出てってくんないかな〜」
と言い放つ新庄は、もう俺を見もしない。
ベースの
そして、バンドの紅一点、キーボード担当の
つまりこれは、新庄ひとりの独断なんかではなかった。バンドメンバー全員で話し合った結果だ。
戦力外通告。
「……そうか、わかった──」
だったら、今の自分が取るべき道は一つしかない。
「俺、出ていくわ」
◇
ライブハウスを出れば、外はもう真っ暗だった。師走の夜は日が暮れるのが早い。
「さてと……これからどうすっかな──」
今夜はてっきり、ライブの打ち上げで遅くなると思っていた……が、予定がすっかり空っぽになってしまった。
普通なら、このまま大人しく帰るべきなんだろうけど、今はとことんメンタルがやられているし、まっすぐ帰るのも……正直しんどい。
ここはひとつ、どこかの店でパーッと気分転換したいところだが、俺はまだ大学生……というか、未成年だし、そもそも金ないし。
てな感じで、ライブハウスの入口でボーっと突っ立っていたら、ヒソヒソ、女子グループに耳打ちされてた。
(……とりあえず、ここを離れよう。もう関係ねぇし)
と、肩に掲げていたギターケースを担ぎ直した、
そのとき。
「──ぁ、あの、すみません……」
ふいに背後からの声で呼び止められる。
振り返ると、ひとりの女子が俺を見ていた。
……いや、見下ろしていた。
(デカっ!?)
というのも、真っ黒な服……というかゴシックロリータな装い(ステージ衣装?)の背が高い(たぶん175センチ超えてる)黒髪ロングの女子(同い年ぐらい?)が、俺を頭上から見下ろしていたりする。ていうか、身長の高低差がヤバい。ちなみに俺の身長は162cm。
「え、ええっと……なにか、用ですか?」
びくりと体を引いて、おずおずと問いかけてみる。
すると、なぜか、すらりとした長身が急にあわてふためき始めて。
「……ぁ、あの、ごめんなさい。わ、私は『アンリマユ』でボーカルを勤めていた
アンリマユ?
ああ、そういえば、最近できた女の子だけのバンドがそんな名前だったっけ……たしか今夜のライブのセットリストにあったような?
「うん、知ってる」
「え? 嬉しいですっ」
(あれ、この子、笑うと凄くかわいいかも?)
そのデカい身長はさておき、目元が涼し気なクール系美少女。
でもボーカルって感じじゃないな。後ろで渋くベースを刻むとか、ドラムをバシバシ叩くほうがしっくりくる。ゴスロリ服だって全然似合ってないし。
「で、そのボーカル様が俺になんの用? つうか、こんなところで油売ってて大丈夫か? そろそろライブが始まる時間だろ」
「へ? オレ……い、いえ、ごめんなさい。実は私、さっき、ボーカルをその、なんていうかクビになってしまいまして……」
クビ……?
「……ま、まさか、ライブ直前で、とか?」
「あはは……そうなんですよ〜、ひどすぎます。あんたクビね、もう帰っていいから、ってリハ直前で言われちゃいました」
マジか……。って、今の俺と全く同じじゃん。
「それは同情するよ、まったくひどいよな、せめてライブの前日に言ってくれよ、こっちだって考える時間とか、心の準備が必要っていうか……」
「ですよね……」
「だよな……」
「あはは……」「えへへ……」
はあ……なんかハブられた同士、しんみりしてしまった。このどんよりとした空気、もう無理。
「じゃ、じゃあこれから頑張って! お、俺も如月さんのことを陰ながら応援すっからさ」
だから俺は、早々にここから立ち去ろうとした。
……が。
「あ、ちょ、ちょちょちょっとまってくださいっ!」
ガシッと手首を掴まれてしまう。つうか、いてぇよ、握力がハンパなくない?
「てか、なに!? 誰かに慰めてもらいたいなら他をあたってくれ、俺は傷のなめ合いなんてまっぴらなの!」
「……傷のなめ合い、ですか?」
「そうだ、俺もさっきバンドを追い出されたんだよ、悪いかっ!」
「そそ、そうなんですか」
「そう!」
と勢い任せにまくしたててから、ちょっと言い過ぎたかも? と我に返った。俺は恐る恐る顔を上げる。こうしないと彼女の顔がよく見えない。
すると。
「えへへ……やっぱり、樹ちゃんもバンドを追い出された口なんですね」
なんか、にへらにへら笑っている。つうか、なんで俺の名前を知ってるの? それに樹ちゃんって。たしかに俺は水瀬樹。もろ下の名前呼びじゃん。ほぼ初対面なんだけど。
「え、ええっと、うんまあ、その」
「もしやと思って声を掛けたんですけど、正解でした」
「……ん、正解? ああ、そうだよな、俺、そんなに負のオーラが出て──」
「水瀬樹ちゃん、私と二人でバンドを組みませんか?」
「たのか──は?」
自虐の途中、気の抜けた声が出た。
つうかなにそれ、流行のバンドアニメみたいなテンプレ展開をまさか自分が体験するとは。
「私たち女の子二人で、新バンド結成です!」
「いや、お断り……へっ? オンナの子?」
てか、俺、男なんですけど!?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
突然の新作です。
他の作品と並行して連載していきますので、ぜひ応援してください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます