7話 若返りの代償

翌朝。外で小鳥の囀る音で、ベットから起き上がると、わたしの横に少女がいて……


「ふぁぁ…」


「おはよう、随分とお寝坊さんね。そういえば、自己紹介がまだだったから、この場で言っておくわ。私はウイ…『精霊王』よ。これから1年間…アンタにみっちり魔法の基礎から何まで全部叩き込んであげるから、よろしくね。」


「え…は、はい…あの、ウイ先生。今何時ですか…?」


「え…せ、先生……?」


ツインテールがくるくると回り若干、頬を赤らめて照れているウイ先生を他所に、時計を確認します。


「むにゃ…12時………ち、遅刻!?!?」


「ちょっと!魔法は」


「明日がかかってるので!!」



……10分後



「ん…明日を賭けたにしては、随分と早い帰還ね。」


「………」


わたしは作業着のまま、力なくベットにボフンと倒れました。


「顔色が悪いけど…病気?なら私の魔法で…」


ウイ先生も心なしか疲れてるのに…わたしが書いた書類の確認をしてくれたからでしょうか。気を遣われてしまいましたね。


「別に……いいです。」


本当だったら、冒険者1本で生きていきたかったのですが、それだとお金が全く稼げないので、副業が主なわたしの資金源…だったのに。


「ええと…何かあったの?」


「も…門前払いされました。何度、冒険者カードを見せても…信じてくれませんでしたっ。」


若返った事で、こんな弊害が出るとは…不覚。


世の中、やっぱりお金が全て。誠に残念な事に、綺麗事ではお腹は満たせませんし、家賃すら払えません。親方さんの鉱山へは、まだいけそうにありませんし……


「わたし、詰んじゃいました?」


困り果てるわたしを見て、ウイ先生が言った。


「うーん。本来なら、座学からやろうって思ってたけど、仕方ないわね…気分転換にもなるし予定を変えて、ダンジョンに行きましょう?」


「へっ?」


ダンジョン?強い魔物(私目線)がウヨウヨしてて、私のレベル的に死んじゃうリスクはあっても他は本当に何もありません。


「ウイ先生。人間領にはもう…一攫千金が狙える様なダンジョンはないんですよ。」


「それはパラステから聞いたわ。けど実は1つだけあるんですって…未探索のダンジョンが。」


み、み、未探索のダンジョン…!?


「ど、何処に!?!?」


「ちっ…近いわよ…//やる気もありそうだし、早速行ってみる?」


「是非に!」


「採掘でもする気?魔導士なのに…ま、まあいいわ…近接武器はあっていいもの。だけどせめて、この服に着替えといて。」


虚空から取り出した魔女服を受け取った。


「ブカブカだけど、着たらサイズが合うように術式が組まれてるから問題ないわ。」


パパッと作業着を脱いで、わたしは魔女服に袖を通した。うわ…すっごく肌触りがいい。


「あれ…でも、ウイ先生と同」


「我慢して。別に用意する時間がなかったから予備を渡したとか…全然、ゼンゼンそーいうのじゃないからね!!!魔女帽子は私のしかないから渡せなかったとかじゃないんだからねっ!!!!!」


ウイ先生がブツブツと呟いている間に、わたしは愛用のツルハシを手に取った…これで準備万端。


「はぁ…じゃあ、転移するから目を閉じてて。今度は転移酔いしないように調整するから。」


「はい…!」


ダンジョン…それも、未探索のダンジョン!!!若返ったからか、元々過剰なくらいに有り余ってる、冒険心が抑え切れない…一体、どんな場所なんだろう?


洞窟?迷宮?それとも塔?道中にある綺麗な湖、煮えたがるマグマで癒されながらも、襲い来る色んなトラップ達を辛うじて乗り越えて最深部には、きっとケンタウロスさんみたいな強大な魔物さんがいて、その背後には、とても両手では持ち帰れないくらいの色とりどりの宝石の山があって…!!!


けど…わたし、そこまで辿り着けるのかなぁ。


「…もう目を開けても平気よ。」


石造りの広間みたいな場所。そして、目の前に広がる光景に、思考がトロけそうになってしまう。


「わ、わぁ…!!!」


「その調子だと、転移酔いはしてなさそうね。良かった…『使用する魔力を極限まで節約すれば、耐性のない人間でも転移酔いを回避する事が出来る』…と。」


金銀財宝が…あ、あんなに!?!?!?!?どうやったら、そんなに集められるんです!?!?!?!?!?


あれだけあれば…パンの耳生活からパン生活…それどころか毎日、サンドイッチ+香りのいい紅茶生活でも……ん?


「…ウイ先生。ここを守る魔物さんは?」


サラサラと羽ペンで書いていた羊皮紙を消して、辺りを見渡した。


「うん…この空間をザッと、探知魔法で調べたけど……敵対する魔物、魔族の反応は1つもないわね。」


「あの、詠唱とかは必要ないんですか?」


不意に湧いたわたしの疑問に、ウイ先生のツインテールが上を向き、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「いい質問するじゃない。詠唱は、あくまでも体内や体外に存在する魔力の指向性…属性を決める儀式みたいなもの。だからアンタみたいなひよっこは、ちゃんと詠唱しなきゃダメだけど、私みたいに慣れたら無詠唱でもいいの。けれど、詠唱は馬鹿出来ないわ。『詠唱を長くすればする程に、魔法の威力が上昇する』っていう魔法理論もあって…これは、私が発見したんだけど…」


ん、んー。なるほど…って事は……つまり、つまりですよ!


「総取りって事ですよね!わーーいっ!!」

「けど…未探索のダンジョンなんだし、有機物のみを対象とする探知魔法にも引っかかない罠もあるかもしれないわね。アンタは下がって…っ…待って!?」


ポチッ……何かを踏んだような。そう思った時には、時既に遅し。



———石造りの床が全て消失した。



「え、きゃぁぁぁぁぁ————!!!!」


「フゥ!!!」


何かの魔法なのか、浮遊していて難を逃れたウイ先生の必死そうな顔が見えて、手を握ろうとしたけど、間に合わず『ガチャン!!!』という音と共に、石の床が再出現して…わたしは、真っ暗の中を落下していった。


















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