4話 親切な人(?)

スッと懐から取り出した物は、何やら液体が入った三角フラスコ。


どういう原理かケンタウロスさんを回収していた少女に、立ち上がって恐る恐る声をかけた。


「あ、あの…」


「ここが流刑の地ってわけね。アンタ、魔導士?」


「……!」


こんな身なりのわたしを…魔導士だって言ってくれるなんて…うっ。


「何で泣くのよ…はぁ。人間はよく分からないわ。助けられたのは……私の方なのに。」


「ひっぐ…ぇ。えぇ!?」


いやいやいや!?わたしは何もしてません。ケンタウロスさんの前で命乞いをしてたくらいで…


「アンタが持ってるソレは、どんな奴でも封じれる力を持つ代わりに、魔力に精通した者なら誰でも解ける仕組みなのよ。」


「…そ、そうだったんだ。」


涙を拭きつつ宝石を眺める。ヒビが入っちゃったけど…まだ売れるかなぁ?日頃の感謝で、親方さんといったドワーフさん達の皆にも、もっといい装備とか…もし残ったら、わたしも贅沢しちゃったり…な、なんて。


「アンタ。」


「ひ、ひゃいっ、わたしなんかに何かご用でしょうか!?」


「非合法じゃなければ、ちゃんと冒険者カード持ってるわよね…それ、見せなさい。」


冒険者協会に加入する時に、必ず作る事になる冒険者カード。それがあると自分の職業や、レベル、ステータスとか討伐数とかが見れて…


「…っ。」


わたしはよく知ってる。冒険者協会とかで嫌という程に浴びせられた……


誰かを値踏みする目だ。


封印とか言ってたし、ろくに功績も挙げられない平凡以下、即追放待ったなしのわたしのカードを見せたら…証拠隠滅とかで抹殺されちゃうんじゃ……


両足を震わせ、ぎゅっと目を瞑りながら、わたしの生涯最後かもしれない勇気を振り絞る。


「い、嫌…です。偶然か気まぐれか知りません。助けてくれたのは感謝してます…けどまだ、わたしは死にたくないんですっ!」


脳裏によぎるのは魔族なのに、人間のわたしを拾ってくれた親方さん。集落を出て、冒険者になろうとしたきっかけを作ってくれた、旅人さんでした。


「……?」


それくらい覚悟を決めても尚、いつまでも何も起こらず、額に軽くデコピンされた痛みで、驚いて目を開ける。


「もう忘れたの?アンタに感謝してるのは寧ろ、私の方だって。」


「え、ええ!?」


ニヤニヤと笑う少女が右手に持っていたのは…なんと、わたしの冒険者カードでした。


「ど、どうやって!?」


「探知魔法でアンタの全身を調べて、保険で透視魔法を使って場所を確定。後は空間座標固定魔法と物質転送魔法の理論で、軽ーく盗みを働いただけ。簡単でしょ?」


「は、はぁ…」


ジッと冒険者カードを眺めてます…30歳なのに、恥ずかしいですね。逃げようにも、冒険者カードを取られた状態では逃げられません。


「冒険者カードを無くしちゃいました。」なんて、そんな事を代表の人に言ったら、より処遇が重くなるかもしれません。例えば…ば、罰金とか。


「……ふぅん。名前はフゥって言うのね。レベルは1…クトルの町の冒険者協会に20年前、加入。職業は………はぁ。やっぱり。」


「証拠隠滅するんですか、わたしを!!」


「アンタを証拠隠滅したいのは、冒険者協会側な気もするけど…まあ、いいわ。」


特になにもされずに冒険者カードを返却されて混乱していると少女が何かを呟き、絵本に出てきそうな豪華な馬車を創造していた。


「う、うわぁ…!」


「一応、馬車の中の空間を拡張して4日分の食料や水、衣服とかも入れといたから、とりあえずアンタはこれでクトルの町に帰りなさい。」


絵本のお姫様が乗るメルヘンチックな馬車に…わたしが乗れと!?いや…え。本当にいいんですか!?!?


「心配しなくても、町までの道は術式に組み込んでおいたわ。万が一、野盗とかに襲われそうになっても傷ひとつつかないし、魔法で創った馬型ゴーレムでどうにでもなるから。」


わたしが何か言う前に「じゃっ、また冒険者協会で会いましょ?」と言い残して、物凄い速さで空を飛んで行ってしまいました。


「……よ、よし。」


ずっと、ここにいる訳にもいかないので、何度か馬車に乗ろうとしましたが…その1歩が出せず、5分くらいが過ぎた頃…ドキドキしながら、馬車へと乗りました。

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