2話 冒険者は世知辛い

何故、急いでたのか…同じ時間に、先約があったからに決まってます!


「はぁ…はぁ……すいません、親方さん。遅れましたぁ…」


クトルの町にある検問所を通って魔族の町に入り、鉱山の中に入り更衣室でさっと作業着に着替え、ツルハシを持って駆けつけると、他のドワーフさん達と話していたのやめて、待ってましたと言わんばかりの満点の笑みを見せた。


「嬢ちゃん!いいタイミングだぜぃ。前に嬢ちゃんが発見したデッケェ鉄鉱石の鉱脈の道が…あーなんだ?岩が落ちて塞がっちまってよ…幸い、怪我した奴は誰もいなかったんだが……」


鉄兜を被った他の作業員さん…ドワーフさん達も照れ笑いを浮かべる中…上から落ちて来た岩を確認した。


「これ…また坑木をケチリましたね!?すっごく便利なのに、何で使わないんですか!!」


知った時は、集落の皆にも教えたくなりましたよ。けどあそこでは、木材は貴重だったから…あんまり使えなかったかもですけど。


どれどれ……


「そりゃあ、使いたいさ…だが、いかんせん購入する資金が…よ。」


あー。はいはい…これくらいなら、3、4回ツルハシを、振れば壊せそうですね。


「はぁっ!ほいっ!!」

カツーン…!!!!カツーン…!!!!


「俺達が魔族ってだけで、下に見られて理不尽に金を釣り上げられるからなぁ…人間とほとんど同じだってのに。」


「そりゃあっ!」

カツーン!!!!


「魔族領、行きてぇなぁ……なあ、話聞いてるのか?」


「…テメェはこの鉱山に来たばっかだったな。」


「若僧。よく見とけ……凄えぞ?」


「ちぇりゃあ!!」

カツーン…!!!!!!ビキッ…ボロボロボロッ…


岩が粉々になるのを確認しつつ、タオルで汗を拭い、雑談していた親方さんも含めたドワーフさん達の方に振り返った。


「ふぅ…これでいいですか?」


「おいそれ、どうやったんだ!?!?ツルハシの材質…?ちょっと見せてくれ!」


「え?」


親方さん以外のドワーフさん達が寄って来て、わたしは困惑してしまう。


「材質は同じだ…な、何で!?」


「ただ脆そうだなぁって、所をツルハシで叩いただけ…なんですけど。


「はぁ!?」


集落の皆からもよく褒められたっけ。


「いつ見ても思うが…本当に、嬢ちゃんはドワーフの血を引いてねえのか?」


「は、はい。」


「親方…そろそろ。」


「ああ…そうだな。お前ら岩もねえから、作業に戻るぞ!今月のノルマはまだざっくり残ってるんだからなぁ!!」


親方さんの一声で、すぐに、ドワーフさん達が鉱脈へ進んでいって、わたしも行こうとすると、親方さんに止められた。


「大事な話がある。聞いてくれるか?」


親方さんの琥珀色の瞳は真剣そのものだった。


……


いつも借りてる格安の宿屋に帰って来たわたしは、明日の用意もせずに、埃っぽいベットに寝転がって目を閉じて、ゆっくりと親方さんのお話を思い出す。


『夢が捨てられねぇのは俺も痛えくれぇに分かる。多分、アイツらも未だに鍛冶師になる夢を諦めてねぇよ。』


『こちとら造るのを禁じられた挙句、人間が俺達の技術を模倣して造った、愛なき贋作を支給されての地下労働だ。フラストレーションが溜まりに溜まってしゃあねぇや。』


『でもよ…仕方ねえんだ。これは、遥か昔に人間領に取り残されちまった間抜けな先祖の末路で…そういう【決まり】なんだからよ。』


『けど嬢ちゃんは違う。嬢ちゃんは人間だ。無理に俺達について来る義理も道理もねぇ。こっちも恩返しなんざ、求めてねぇさ。』


『今年でもう30歳なんだろ?人間のことはよく知らねえが…そろそろ、身の振り方を決断してもいい頃なんじゃねえか?』


『今日はもう帰れ。で、次ここに来たら話を聞かせてくれ。どうなろうが、嬢ちゃんの意思を尊重するぜ。』


わたしは目を開けて、夕日に照らされた窓から壁で囲まれている魔族町を眺める。


「『正式に雇いてぇ』…か。」


今こうして、生活出来ているのは親方さんに拾われたお陰。思い返すと…本当に、魔族町の方からクトルの町に入ってよかったと思う。


もし逆だったら…20年どころか、冒険者になる前に……


反射的に枕に顔をうずめて…考える。


「むぅぅぅぅぅ…どうしよ。」


親方さんには、見ず知らずのわたしを助けてくれた恩がある。だけど……



……このまま諦めていいの?夢を。



結局わたしは朝まで眠れず、急いで依頼に荷物を準備して、集合場所へ向かった。

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