事故死で転生したら……未経験の百合騎士でした~女騎士ミセリア・ステラと魔呪姫の逃亡旅~
楠本恵士
第1話・異世界でも死んでいます
近づいてくる救急車両のサイレンが聞こえていた。
高速道路での多重衝突事故に巻き込まれ、全身を強打した女性ライダーは、真っ赤に染まったヘルメットの視界の中で、自分の呼吸が弱まっていくのを感じていた。
(あたし……死ぬの? これから死んじゃうの)
うつ伏せに道路に倒れて動けない、ライダースーツの女性は体の感覚が次第に無くなっていくの覚えた。
急停車したトラックの後部に激突してから覚えているのは、バイクから放り出されて固い道路を数回バウンドして、転がったコトだった。
(意識を失ってから、どのくらい時間が経過したんだろう……もう、痛みも感じない……ごめん、お母さん……あたし事故っちゃった)
遠くから「火事だ! 離れろ!」と、叫ぶ男性の声が聞こえた直後──女性の全身が横転した車両とバイクから漏れた燃料に、引火した炎に包まれた。
❥❥❥❥❥❥❥❥❥
炎に包まれて死んだ女性ライダーは、唇に柔らかい物体の感触を覚えた。
(なに?)
小鳥の鳴き声が聞こえ、涼風と誰かの髪が頬に当たっている。
(ここは、天国?)
女性の体に痛みはない……そればかりか、自分の体では無いような違和感を女性は感じた。
鎧を着ているような感じの隙間から、誰かの手が差し込まれて、胸を触られている感覚があった。
女性ライダーは、慌てて両目を開ける。
そこに、ティアラをした見知らぬ少女の顔があった。
唇を奪われている女性ライダーは、驚いて少女を突き飛ばす。
「な、な、な、な?」
言葉にならない女性ライダーの目に、自分が仰臥している草原の木陰から、枝葉を抜けて差し込んでくる太陽の日差しが見えた。
上体を起こして周囲を見た女性ライダーの目に、続く草原と連なる残雪の雪山が映る。
そして、微笑んでこちらを見ている姫の姿が。
上空を数匹のワイバーンが、飛んでいくのが姫の肩越しに見えた。
(冗談でしょう……異世界に転生した?)
女性ライダーは、首から下に騎士のような鎧を装着してた。
(なに、この姿……あたしのバイクは?)
異世界の姫が、ライダーに柔らかい口調で言った。
「魔呪術が成功して、生き返ったのですね……追っ手から貫かれた剣の傷は魔呪で再生回復したので、もう大丈夫です」
「はぁ? 魔呪? あなた誰? ここどこ? なんで言葉通じるの?」
異世界に来てしまった女性ライダーは、パニクった頭で必死に現状を理解しようとした。
女性ライダーは混乱が続く頭で考える。
「ちょっと待って、今頭の中を整理するから……あたしは、間違いなく高速道路で事故った、それで気がつくと知らない世界で女の子からキスされていた……あたしの名前なに? 思い出せない」
ティアラをした少女は、納得したようにうなづく。
「うんうん、魔呪は成功している……別の世界の魂の記憶なんて必要ないから召喚して、肉体に入れる時に排除した」
少女の言葉に、さらに混乱する女性ライダー。
「排除したって……あたし、誰? この体は誰の体? あっ、心持ち胸大きい」
ティアラをした少女の、どこからか取り出した紙芝居を使った説明がはじまった。
「ここは、異世界大陸レザリムスの一部の半島……半島と言っても、あなたが住んでいた〝ニッポン〟という国の二倍の面識はある」
「なんで、ニッポンを知っているの? 異世界の者と言葉通じるのなぜ? どこから、その紙芝居出したの?」
「順を追って説明するから……面倒くさい魂を召喚しちゃったな……紙芝居は気にしないでいい、ここは
少女は、ここはレザリムスの西方地域に近く、この世界の東方地域は
「もう、追っ手も近くに来ているから……簡単な自己紹介だけしちゃうね……あたしの名前は『
女性ライダーは、頭の中で姫の名前と、自分の肉体の名前を繰り返す。
魔呪姫『毒星
女騎士『ミセリア・ステラ』
女性ライダーが、また沸き起こった疑問を魔姫にぶつける。
「なんで、異世界なのに日本風の名前で……どうして、言葉通じるの?」
「うるさいなぁ、それは……」
その時──馬の蹄音に似た数頭の動物が、森の中からこちらに向かって駆けてくる音が聞こえた。
「
魔姫が手の平を草原に向けると、三十センチほどの魔法陣が現れ、同時にのっぺりとした目の無い巨大なイモムシのような生物が現れた。
「魔呪生物『移動くん』……移動くん、あたしとミセリアを食べちゃって」
移動くんが、大口を開けて女性ライダーのミセリア・ステラに迫る。
「ち、ちょっと待って……これって、エッチなマンガによくある、丸呑み? いやあぁぁ!」
魔姫とミセリアを呑み込んだ、移動くんはそのまま掘った地面の下に消えた。
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