売れ線の絵はもう君の方が上手だよ。私は私しか描けないものを描きたいんだ

 これはとても良い作品ですね。作者の野梅惚作さんは、今年8月から小説を書き始めたそうですが、これからどんどん良作を出しそうな予感がします。

 ストーリーは、日本で発見された、18世紀のパリの巨匠ルシアンが幼少時に描いた犬のデッサンが、オークションにかけられるところから始まります。そのデッサンは、荒々しい筆致で描かれ、まったく売れ筋とはいいがたいものでしたが、誰の心をも掴んで離さない魅力に満ちていました。
 本作はこのデッサンをめぐる、二人の画家、師のカイエルと、弟子のルシアンの物語です。成功や名声への渇望と、それに相反する芸術家としての本能。
 流行作家として画壇で大きな成功を収めたルシアンは、不遇のカイエルとの再会を果たした後、足元を見直して、独自の画風に昇華していくその過程にとても引き込まれます。
 
 分野は全く異なりますが、「何のために描いているのか」という問いかけは、WEB小説作家の皆さんも日ごろお感じになっていることではないでしょうか。 

 そんなことにも思いを馳せ、感銘を受けた作品でした。
 わたくしはとてもお勧めします。

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