第24話:口コミの力
初日は、大成功に終わった。
俺たちが用意したろ過器五十台と、浄化石二百袋は、夕方になる前にはすべて売り切れてしまった。
「すげえ…カイ、すげえよ!」
「金だ! 俺たちが稼いだ金だ!」
ダンが握りしめた金袋の重さに、子供たちは歓声を上げる。
そのオーラは、達成感と興奮を示す、まばゆいばかりの黄金色に輝いていた。俺のWPも、心地よい満足感と共に、満タンまで回復している。
「カイ、明日の分がねえぞ! 今から倉庫に戻って、徹夜で作るしかねえ!」
トムが、焦ったように言った。
「いや、その必要はない」
俺は、店の前に「本日は完売しました」という札を立てながら、首を振った。
「むしろ、これでいいんだ。品切れは、商品の価値をさらに高める」
「どういうことだ?」
「『限定品』『入手困難』。こういう言葉は、人の購買意欲を煽るんだ。今日買えなかった客は、明日、開店と同時に押し寄せてくる。そして、その噂を聞きつけた新しい客も一緒に連れてくる」
前世のマーケティングの知識だ。
俺の予測通り、二日目の朝、俺たちの店の前には、開店を待つ人々の長い列ができていた。
「ろ過器を一つくれ!」
「浄化石を五袋!」
商品は、飛ぶように売れていく。
そして、俺たちの商品の評判は、思わぬ形でさらに広がっていくことになった。
「おい、聞いたか? カイ・ファミリーの浄化石、料理に使うと、野菜の味が良くなるらしいぞ!」
「うちの古井戸の鉄臭さが、ろ過器を使ったらすっかり消えたんだ!」
購入した客たちが、その効果を自らの体験として、周囲に語り始めたのだ。
広告塔は、ミアたち宣伝部隊だけじゃない。
満足した顧客一人ひとりが、俺たちの最強のセールスマンになってくれる。
これが、「口コミ」の力だ。
三日目、四日目と、売り上げは爆発的に伸びていった。
トムたちの生産が、まったく追いつかない。
一方、エリアーナの店は、初日の勢いが嘘のように、客足が遠のいていた。
高価な香水は、毎日買うようなものではない。富裕層の顧客を一通り取り込んでしまった今、新たな顧客を開拓できずにいたのだ。
エリアーナは、毎日、遠くから悔しそうに俺たちの店の盛況ぶりを眺めていた。
彼女のオーラから、自信に満ちた赤色が消え、焦りを示すオレンジ色が濃くなっていくのが、俺にははっきりと見えた。
勝利は、目前だった。
だが、俺は知っていた。
物事が順調に進んでいる時ほど、足元を掬われやすいということを。
俺の`Risk_Management.so`が、まだ見えぬ脅威の存在を、静かに警告していた。
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