第22話:エリアーナの挑戦

エリアーナ・フォン・ベルク。

彼女の登場に、周囲の空気が変わった。野次馬たちは、大商会の令嬢に道を譲り、遠巻きに様子を伺っている。


俺の`ビジュアライズ・メンタル`が、彼女のオーラを捉える。

自信を示す燃えるような赤色と、プライドの高さを示す高貴な紫色。そして、その奥に、俺たちの商品に対する純粋な「好奇心」が、ごくわずかに混じっている。


「インチキ、ですか。お嬢様」


俺は、少しも臆することなく、笑みを返した。


「でしたら、あなた自身の目で、これが本物かどうか、確かめてみてはいかがですかな?」


俺は、ろ過されたばかりの透明な水を土器のコップに注ぎ、彼女に差し出した。


「さあ、どうぞ。毒など入っておりませんよ」


エリアーナは、一瞬ためらったが、プライドがそれを許さなかったのだろう。俺からコップを受け取ると、ほんの少しだけ口をつけた。


「…!」


彼女の目が、驚きに見開かれる。


「…ただの水、ね。でも、嫌な臭いや味が、まったくない…」


「それが、俺たちの商品の価値です」


エリアーナは、悔しそうに唇を噛んだ。


「…ふん。面白いわ。でも、所詮は土器。見た目も悪いし、こんなもの、物好きしか買わないわよ」


彼女はそう言うと、自分の店のほうを指さした。

彼女の店は、広場の一等地にあり、豪華な天幕と絨毯で飾られている。


「私の商品は、これよ」


彼女が示した先には、美しくカットされたガラス瓶に入った、色とりどりの液体が並んでいた。


「我がベルク商会が、高名な錬金術師と共同開発した『香水』よ。一滴身につけるだけで、花の香りを一日中楽しむことができる。これこそ、貴族や富裕層が求める、真の贅沢品だわ」


確かに、素晴らしい商品だ。ターゲットも明確で、利益率も高いだろう。


「あなたたちのガラクタが、一日でいくつ売れるかしら? 私の香水は、予約だけで、すでに百本は売れているのよ」


エリアーナは、勝利を確信した笑みを浮かべた。


「勝負しましょう、カイ。この新人商人市で、どちらがより多くの売り上げを上げるか。もし私が勝ったら、あなたたちは二度と商人を名乗らないこと。そして、その不思議な土器の作り方を、私に教えなさい」


「…いいでしょう」


俺は、その挑戦を即座に受け入れた。


「では、もし俺たちが勝ったなら?」


「ありえないわ。でも、万が一、億が一そんなことが起きたなら…」


エリアーナは、少し考えてから言った。


「…私が、あなたの『カイ・ファミリー』に入ってあげるわ。あなたたちの下で、商売のイロハを学んでやってもいい」


それは、彼女なりの最大の譲歩であり、そして俺たちの勝利を全く信じていないことの現れだった。


「取引、成立ですね」


俺は、不敵な笑みを浮かべて、彼女の挑戦的な視線を受け止めた。

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