第21話:新人商人市の開幕
七日後。王都の中央広場は、新人商人市の熱気に包まれていた。
色とりどりのテントが立ち並び、威勢のいい呼び込みの声が飛び交う。
俺たちカイ・ファミリーに割り当てられたのは、広場の最も隅、人通りの少ない場所だった。バルトロの嫌がらせであることは明白だ。
「ちっ、最悪の場所じゃねえか…」
ギルが悪態をつく。
だが、俺は動じなかった。
「問題ない。場所が悪いなら、客をこっちに引っ張ってくればいい」
俺たちの店は、他の商人のように豪華な飾り付けはない。ただ、長机の上に、トムたちが魂を込めて作ったろ過器と浄化石が並べられているだけだ。
そして、店の前には、俺たちのコンセプトを記した大きな木の看板が立てかけられている。
『安全な水を、すべての人に――カイ・ファミリー浄水店』
「よし、作戦開始だ!」
俺の号令で、全員が持ち場につく。
トムは、予備の部品を手に、商品のメンテナンス担当。
ダンは、金の管理と全体の指揮。
ギルとハイエナの連中は、いかつい顔で店の警備にあたる。
そして、宣伝部隊のミアたちが、市場へと散っていった。
最初は、誰も俺たちの店に見向きもしなかった。
スラムの子供がやっている怪しげな店。そんな目で、遠巻きに眺められるだけだ。
だが、しばらくして、市場の雰囲気が少しずつ変わり始めた。
「おい、聞いたか? 広場の隅で、ガキどもが汚ねえ水をきれいにする芸をやってるぞ!」
「魔法じゃねえのに、水が透き通るんだと!」
ミアたちの実演販売が、口コミとなって広まり始めたのだ。
一人、また一人と、野次馬が俺たちの店の前に集まってくる。
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
俺は、人だかりができたのを見計らって、声を張り上げた。
前世の施設で、夏祭りの模擬店を担当した経験がここで活きるとは。
俺は、用意した泥水をろ過器に注ぎ、透明な水が滴り落ちる様子を、大げさな身振り手振りで解説する。
「なんと、この魔法の土器を通せば、泥水がたちまち清らかな泉の水に! お宅の井戸水も、これさえあれば王宮の食卓に並ぶ高級ミネラルウォーターに早変わり!」
「おお…!」と、観衆からどよめきが起こる。
客の興味が最高潮に達した、その時だった。
「――くだらない見世物ね」
人垣をかき分けるようにして、一人の少女が前に出てきた。
年の頃は、ダンと同じくらい。上質な絹のドレスを身にまとい、その瞳は、俺たちを完全に見下していた。
「そんなインチキ商品で、この私、エリアーナ・フォン・ベルクに勝てると思っているのかしら?」
彼女は、王都でも有数の大商家、ベルク商会の令嬢。
そして、今回の新人商人市で、俺たちの最大のライバルとなる相手だった。
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