第18話:新しいプロジェクト「浄化の土」
商人ギルドへの登録。
その提案は、俺たちの間で大きな議論を呼んだ。
「商人になるだと!? 俺たちがか!?」
「すげえ! 市場に自分たちの店を!?」
子供たちは、期待と不安で騒然となった。
ダンは、慎重な姿勢を崩さない。
「カイ、うまい話には裏がある。衛兵が、ただでそんな口利きをしてくれるとは思えねえ」
「ああ、その通りだ。ザック隊長には、彼なりの思惑があるだろう」
俺は、ダンの意見に同意する。
ザックの目的は、おそらくスラムの治安改善だ。俺たちを成功モデルとして自立させ、他のスラム住民にも秩序ある生活を促したい。それが彼の正義であり、衛兵としての功績にも繋がる。
「だが、俺たちの目的と、彼の目的は一致している。この話、乗るべきだと俺は思う」
俺たちの目標は、あくまで「全員で生き残る」こと。そのためには、安定した収入源の確保が不可欠だ。
俺の決断に、最終的にダンも頷いた。
カイ・ファミリーは、商人ギルドへの登録を目指すことになった。
だが、そのためには、ギルドを納得させるだけの「商品」が必要だ。
今の土器だけでは、まだ弱い。もっと付加価値のある、俺たちにしか作れない何か。
俺は、一つの可能性に思い至った。
スティンキング・リバーの、あの不思議な粘土。
俺はトムを連れて、再び川岸へと向かった。
「トム、この粘土をよく調べてほしい。何か、他の場所の土と違うところはないか?」
トムは、職人の目で粘土を手に取り、匂いを嗅ぎ、感触を確かめる。
「…カイ。この土、なんだか…すごく『きれい』な感じがする」
「きれい?」
「うん。普通の土にある、なんていうか、腐ったような匂いが全然しないんだ。それに、水を加えると、水の方がきれいになっていくような…」
やはり、俺の感じた浄化の力は、気のせいではなかった。
俺は、前世の知識をフル回転させる。
浄化作用。脱臭効果。ろ過。
そうだ、これだ。
「トム、この粘土で、新しい商品を作るぞ」
俺は、トムに新しいプロジェクトの概要を説明した。
「一つは、『浄化石』。この粘土を小さく丸めて焼いたものだ。井戸や水瓶に入れておけば、水をきれいにし、嫌な匂いを取ることができる」
「もう一つは、『ろ過器』。大小二つの土器を重ね、間にこの粘土と砂利を詰める。上の器に汚れた水を注げば、下の器にはきれいな水が溜まる仕組みだ」
トムの目が、興奮に輝いた。
「すげえ…! そんなことができるのか!?」
「ああ、できる。これが、俺たちの切り札になる。スラムだけでなく、王都中の人々が欲しがる、唯一無二の商品だ」
聖属性魔法の片鱗が宿る、奇跡の粘土。
俺たちは、この「浄化の土」を武器に、商人ギルドの門を叩く。
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