第15話:三つの勢力

「…なんだ、ギル。テメェ、こいつらの味方をするのか?」


ボルコフは、ギルの登場に顔をしかめたが、まだ余裕の表情を崩さない。


「こいつらは、俺たちの『ダチ』だ。ダチがカツアゲされてんのを、黙って見てるほど、俺たちは落ちぶれちゃいねえ」


ギルは、ボルコフをまっすぐ睨みつけて言い放った。


「ほう、衛兵に逆らうと。面白い。ちょうどいい機会だ、お前らハイエナも、まとめて『掃除』してやる」


ボルコフが腰の剣に手をかける。彼の部下たちも、下卑た笑みを浮かべて棍棒を構えた。


数は、ハイエナが上だ。だが、相手は武装した衛兵。まともにぶつかれば、こちらにも大きな被害が出る。


(まずい…最悪のシナリオだ…)


俺の`リスクマネジメント`が、危険信号を発する。

俺が《心身治癒》で全員を回復させれば勝てるかもしれない。だが、それは俺の力の存在を公に晒すことになる。この腐敗した衛兵に知られれば、どんな面倒が起きるか分からない。


俺が介入のタイミングを計っていると、ダンが俺の前に立ちふさがった。


「カイは手を出すな。お前の力は、最後の切り札だ」


ダンは、俺の能力の価値とリスクを、正確に理解していた。


「ここは、俺たちでなんとかする」


ダンは、倉庫の子供たちに目配せした。彼らは、俺が教えた通り、石や、先端を尖らせた木の棒を手に、いつでも戦える体勢を整えている。


カイ・ファミリーとハイエナの連合軍。

対するは、腐敗した衛兵。


スラムの覇権を賭けた戦いが、始まろうとしていた。


「…そこまでだ」


張り詰めた空気を切り裂いて、また別の声が響いた。


倉庫の入り口に、新たな人影が現れる。


それは、ボルコフとは対照的な、清潔な制服を隙なく着こなした、若い衛兵だった。背筋は伸び、その瞳には、濁りのない、強い意志の光が宿っている。


「…なんだ、ザック。貴様、俺の仕事の邪魔をする気か?」


ボルコフは、ザックと呼ばれた若い衛兵を、忌々しげに睨みつけた。


「ボルコフ曹長。あなたの『仕事』については、かねてより報告が上がっています」


ザックは、冷徹な声で言った。


「スラムの住民に対する不当な金品の要求、暴行。これらは、王都衛兵隊の規律に反する重大な違反行為です。これより、あなたを職務規定違反の容疑で拘束します」


「なっ…!?」


ボルコフの顔から、血の気が引いていく。


「ふざけるな! 俺を誰だと思ってる! 俺のバックには…!」


「その『バック』とやらにも、話は通っています。もう、あなたの好きにはさせません」


ザックが合図すると、彼の後ろから、屈強な衛兵たちが現れ、あっという間にボルコフとその部下たちを取り押さえた。


予期せぬ、第三の勢力の介入。

俺は、この良心的な衛兵、ザックのオーラを観察する。


それは、正義感を示す、どこまでも真っ直ぐな青い光だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る