第14話:腐敗した衛兵

その男は、突然やってきた。


王都の衛兵の制服を着てはいたが、その着こなしはだらしなく、目つきは濁っていた。腹は突き出て、腰の剣はただの飾りにしか見えない。


「ここが、最近羽振りがいいっていうガキどものねぐらか?」


男――衛兵のボルコフは、値踏みするような視線で俺たちの倉庫を見回した。

彼の背後には、同じように柄の悪そうな部下が二人控えている。


俺の`メンタル・ビジュアライズ`が、彼らのオーラを捉える。

強欲を示すどす黒い赤色と、他人を見下す傲慢な紫色。絵に描いたような、腐敗した役人のオーラだった。


「…衛兵様が、何かご用でしょうか」


俺は、子供たちを背後にかばいながら、冷静に対応する。


「用ならあるさ。お前ら、最近、市場で商売を始めたそうじゃねえか。このスラムで商売をするには、ショバ代ってもんが必要なんだよ。知らなかったか?」


ボルコフは、下卑た笑みを浮かべて言った。


「俺たちが、お前らみたいなゴミを、他の連中から守ってやってるんだ。その分の『みかじめ料』を払うのは、当然の道理だろう?」


明らかな、ゆすりたかりだ。

カイの記憶によれば、このボルコフという衛兵は、スラムの弱者から金を巻き上げることで私腹を肥やしている、悪名高い男だった。


「…生憎ですが、俺たちにはお支払いできるような金は…」


俺がそう言いかけた時、ボルコフの目が、倉庫の隅に積まれた土器の山を捉えた。


「ほう、なかなかいい品じゃねえか。金がないなら、それで払ってもらおうか」


ボルコフの部下たちが、土器に向かって手を伸ばす。


「やめろ!」


トムが、悲鳴のような声を上げた。それは、俺たちが初めて自分たちの手で作り上げた、血と汗の結晶だ。


「うるせえ、クソガキ!」


部下の一人が、トムを乱暴に突き飛ばした。


その瞬間、俺の中で何かが切れた。


「――それ以上、俺の家族に手を出すな」


俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。


「ああん? なんだ、チビ。やんのか?」


ボルコフが、面白そうに俺を見下ろす。


暴力は、最悪の選択肢だ。だが、守るべき一線を越えられた時、俺はもう躊躇しない。


倉庫の空気が、一触即発の緊張感に包まれた、その時。


「――そいつらから、手を離しな、ボルコフ」


入り口から、静かだが、有無を言わせぬ威圧感をまとった声が響いた。


そこに立っていたのは、ハイエナのリーダー、ギルだった。

彼の背後には、武器を手にしたハイエナのメンバーがずらりと並んでいる。


スラムの子供たちと、腐敗した衛兵。

そして、スラムの暴力装置。


三つの勢力が、この小さな倉庫で、にらみ合った。

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