電車読書

大橋勇

 ぼくは電車の中で文庫本の小説を読んでいた。

 国家試験の受験資格を得るため、隣の県の地方都市にある大学へスクーリングを受けに行った帰りの電車の中だ。三十九歳のぼくにとって今後の人生を考えるとこの国家試験はすごく重要な試験だったから、電車の中でも勉強をして試験で高い得点を得られるようがんばることが大事かもしれなかった。でも、ぼくは小説が好きだったし、「勉強だけ」というのが嫌いだった。大学受験のときにそれをやって大した効果はないことを知った。適度に遊んでいるほうが物事はうまくいくし、失敗しても他に楽しみがあれば破滅するようなことはないのだ。

 で、ぼくは電車の中で文庫本の小説を読んでいた。周囲を見渡すと、スマートフォンをいじっている人が多かった。文庫本や新聞を読む人の数より、圧倒的に多かった。

 彼ら彼女らを見ていると、まだ世間にスマートフォンが流通する前、ぼくが大学生の頃のことが思い出された。




(つづく・・・)

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