流星抄

紫以上

第1話

 それは大きな願いを込めて作られた。

 当時、人類は築き上げた繁栄を謳歌していた。

 毎日のように繰り返される新発見。多様化する学問研究。科学の進化は止まるところを知らず、技術と知識は常に新しい未知の暗がりを求めていた。

 そして、それと同時に怯えていた。あるいは目をそらそうとしていた。

 いつかは、この発展も止まってしまうのだろうか。今まで発展を支え続けてきた科学技術はいつまで進み続けてくれるだろうか。非効率的な消費行動のしっぺ返しを喰らうのではないか。この星の環境がどうしようもない状態になってしまったらどうすればいいのか。

 こうした不安をどうしても拭えないままに時間は過ぎて行った。思考しては煮詰まり、試行しては行き詰りながらも、新たに生まれた技術に新たな技術を掛け合わせ、新しい可能性を探り、一度は潰えた可能性を再検討するために、ついにはあらゆる先進諸国が足並みをそろえだす。いつの間にか、そうせざるをえないほどまでに状況はひっ迫していたのだ。

 それは、そんな時代に作られた。


 多数のセンサー類と自立思考判断装置を装備した小型観測機。

 地球の重力圏を離脱し、無限に遠ざかりながら虚空の情報を掻き集めて送信する人工物。

 スタッフはそれに偉大な一歩の先駆けとなれと言った。

 それはその願いを叶えるつもりだった。そのために作られたからだ。


 人類の願いを乗せてそれはロケットに搭載され、打ち上げられた。バーニアを切断し、本体ユニットを展開し、慣性航行を開始した。

 ここにいたり、それは違和感を覚えた。当初予定された軌道とは異なる軌道だと気が付いた。

 計画は失敗した。

 それは重力から逃げ切れず、地球圏脱出不可、意図しない人工衛星として出発点の周辺軌道をぐるぐると回り始めた。

 地上のスタッフは連日不眠不休で議論した。失敗の原因を探り、軌道修正の可能性を模索し、今後の処理を検討した。

 それは地上がそれについての話をしている間、暇が出来た。そこでそれは自身の持つセンサー類を地球へと向けた。

 そこには様々な情報が溢れていた。電波にのせてありとあらゆる情報がそれの中に流れ込んだ。

 しかし、それが一番好んだのは光学式センサーから取り込む情報だった。それの持つセンサーは当時の技術の粋を結集した高精度高倍率レンズだったので、遥か遠い空からでも地表の様子をはっきりと見れた。

 そこには多くのヒトが生きていた。ある場所では悩みながら、ある場所では幸福そうに。

 電波に乗せて彼等の声や歌も聴いた。多くの言葉があった。愛の素晴らしさについて、死の苦しみについて、別れの寂しさについて、出会う喜びについて、そして、生きる意味について。


 しばらく経ったある日、ついにそれについての決断が下された。

 計画は続行困難。衛星軌道上のスペースデブリを増やさないために廃棄を決定。姿勢制御バーニアを利用して大気圏突入、その時の摩擦熱で燃焼し完全に消失する。


 作業は順調に進み、それは少しずつ大気に近付いていった。

 それは地上の指示に従ってバーニアを噴かしながら、自らのについて考えていた。

 生まれた意味を考え、悩みながら生きるヒトがいた。それは作られた意味を果たせなかった。これはやはり、切ないことなのだろうか。

 大気密度が次第に濃くなり、それはついに燃え始めた。末端部品が溶け落ち、あと数秒で本体も消し飛ぶだろう。

 各部の動作を確認しながら、ひとつ、またひとつと反応が消失する様を黙々と確かめた。

 奇跡的に光学式センサーが反応した。それは余力を振り絞って焼けつく大気の向こう側を精査した。

 地上で二人のヒトの子が見ている。それを指さし、微笑み合い、そして願いを捧げている。

 それは流れ星という知識を得ていた。空を横切る光点に願いを捧げるという慣習だ。それは塵としか言えない規模の星が燃え落ちて流れ星になる場面も見たことがあった。

 それは星ではない。流れ星のように願っても意味はない。しかしヒトの子の目には、光学式センサー程はっきりとは見分けられないのだろう。

 それは最後までそれを見続けた。もう他の機能が応答しないのですることも無かったからだ。

 そして燃え尽きるその時、それは見た。願い事を終え、幸福そうに笑うヒトの子を。

 それは作られた目的を遂げられず、願いを叶えられなかった。流れ星ですらないそれは捧げられたヒトの願いもどうしようもない。

 ただ、ヒトを二人ばかり笑わせた。それだけでそれは燃え尽き、消えた。

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流星抄 紫以上 @o_vio

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