24 【看破】
ガタガタと揺れながら、山中の街道を進んでいく馬車。
それに合わせて、幌の中に吊るされた【魔光灯】のランタンと、それが
……この揺れと効果音も、一応ゲームなので、……軽い
なので、今、馬車の中は静かなものだ。
ちなみに、……目的地までは、所要時間として、だいたい30分くらい掛かるみたい。
なんというか、定期便発着の待ち時間もだけどさ。
色々なタイミングで謎に時間が掛かったりして、変な所でリアルなんだよね~、このゲーム。
まあ、特別急いでいるという事でも無い。
そんなワケで僕は、道中、景色を眺めながらのんびりと過ごす事にした。
……まぁ、幌の外はほとんど真っ暗闇なんだけどさ。
*
そんな感じで、
じーっ……。
と、いつからか、こちらを見つめる視線を感じるようになっていた。
視線の主は、……まぁ、言うまでも無く、もう一人の同行者である『すえこ』さんだよね……。
思わず、【偽装】の継続状態を確認しちゃう僕。でも別に、効果時間は切れておらず、ちゃんと【偽装】状態が持続しているみたいなのだよね。
うーん、なんだろう。ちょっと怖い。
やりづらいというか、居ずまいに迷うというか。
そんな居心地の悪い感じに
ばっちり、目が合ってしまった……。
な、なんか、こっちをめっちゃ見てるよ~。
僕は思わず、目を逸らす。
沈黙と、馬車の揺れる音。
ガタゴト、……。
………。
………。
き、気まずい……。
かなり気まずいよ!
再びちらっと視線を向けてしまうと、すえこさんはずっとこちらを見つめたままだったようで、再び目が合ってしまい。
そして、フワッ、とこちらに微笑みを
*
「……初心者さんですよね。珍しいですね」
そんな風に話しかけてくるすえこさんに、僕はと言えば、ちょっと警戒して身構えてしまう。
まぁ、『珍しい』というのは、実際その通りではあるのだろう。
というのも、僕は今、【偽装】している情報により、
対して、いま向かっている【常宵の口の補給拠点】は、――いや、なんならこの【霧の地】にしたって。
お世辞にも『初心者向け』とは言えないような場所なのだよね……。
具体的には……、出てくる魔物のレベルが70前後であり、フィールドにしても、常にフィールド効果【天候:エレトの静寂の霧】が、……と、まぁ、それは置いとくとして。
とりあえず、すえこさんに対して、僕は少し身構えつつ……。
「そうなんですか?」
と、適当にとぼけて返してみる。
すると、すえこさんは、目深に被ったフードの奥でくすくすと笑った。
ちなみに、すえこさんのアバターは、フードから見える範囲に限っても、とても可愛らしいね。
瞳は、透き通るような
少し吊り目がちの
自然に整えた感じの黒髪の前髪と、色白の肌が、綺麗なコントラストを見せ。
いまは、ランタンのオレンジの光が、髪と瞳にチラチラと反射している。
すえこさんは、とぼけた僕の言に対しても、特段それをつついたりすることなく、軽い調子で続けた。
「はい。……ボク、この辺でよく金策してるんですけど、レベル40台の人はあんまり見たことなくて」
……すえこさん、女の子のアバターだけど、『ボク』という一人称なんだね。……まぁ、それも置いといて。
やはり、45というレベルが、ロケーションに
ちょっとサバ読みが足りなかったかな?
そんな風に、若干後悔しつつ、僕はひとまず「なるほど」とだけ相槌を返しておく。
まあ、まだ傷は浅い、……と信じたい所だよ。
そんな僕に、すえこさんはこちらに向き直って、ニコニコ笑顔で続ける。
「あの、せっかく相席になったので、良ければお話でもどうかなって。初心者さんなのに、こんな所に居るなんて、どこに行かれるのかなーって気になったんですよね。……ボク、『すえこ』と言います」
「あ、僕は『ぴよ右衛門』です」
僕が名乗ると、その響きがツボに入ったのか、すえこさんは「アハハッ!」と破顔した(笑顔も可愛らしいね。口の端にチラリと見える八重歯もチャーミング)。
ちなみに、『ぴよ右衛門』というのは、【偽装】で表示しているウソのプレイヤー名だよ。
『ぴよ太郎』とか、『ぴよ次郎』とか、適当でいいかな? と思ったのだけど、あまりに
……いいよね?
……ゴホン。そうそう、一応補足すると、プレイヤー名には読み仮名が振れるのだけど、これは『ぴよえもん』と読むよ。……うん、どうでもいいね。
すえこさんは、まだちょっとツボに入っているみたい。
うーん……。
「それで、ンフッ、…………すみません。それで、ぴよ右衛門さんは、どうしてこんな所まで?」
「……あー。ちょっと、【雪牢の地】に、……ええっと」
言い
「
ドキリ、とする。
僕は警戒レベルを高める。そんな僕を見つめたまま、すえこさんは続ける。
「場所は、
「……!」
「……お、
僕の答えを待たず、確信を持った表情で頷く彼女。
そして、それは確かに
改めて、僕がなぜ【雪牢の地】に行こうと思っていたのか?
それは、『【雪牢の地】に所在する【氷封の遺跡】というダンジョンに引きこもるため』なのである。
ちなみに目的は、『強くなる』ことだよ。要は、なんてことはない、レベル上げである。
で、なぜ【氷封の遺跡】なのか? ……とか、細かい点は一旦置いとくとして。
ともあれ、
僕は観念して息をつき、頬を掻く。
「フゥ、……ご明察ですね。仰る通り【氷封の遺跡】に行こうと思ってます」
そう告げると、すえこさんは「うふふ」と無邪気に笑った。
その笑顔には、とりわけ害意は無いように見えるのだけど、……まぁ、引き続き警戒するに越したことはないよね。
で、すえこさんは、また次のように続けるのだ。
「たぶんですけど、ぴよ右衛門さんって、……
「あー……」
『例の初心者』、つまり、セイルさんがおととい言っていたように、『掲示板を賑わせている初心者』の意。
まぁ、【氷封の遺跡】が目的地である事を言い当てられた事から、なんとなく察してはいたけど、これもバレてるね。
状況から察するに、どうやらすえこさんには、僕の
はぁ、……というコトでね。たぶんもう、隠しても無駄だし、全面的に認めてしまおう。
「ええ、仰る通りです。……あの、後学のためにお聞きしたいのですが、【看破】ですか?」
【看破】とは、【偽装】や【隠密】を見破る技能の事だよ。で、案の定……。
「はい」
と、すえこさんはイタズラっぽい笑顔で肯定し、得意気にツラツラと喋り出す。
「勝手にアドバイスするとですね~。【偽装】って、【看破】とかで見破られた事に気づけないんです。なので、『カウンタースペル』を仕込んでおくと良いですよ。スペルが発動したかどうかで【看破】系の技能の対象となったかどうか、判断できますからね~」
「そうなんですね。今度試してみます……」
まあ、うん……。勉強になるよ。
……ええとね、すえこさんの言う『カウンタースペル』とは、……自分(ないし特定の人やオブジェクトなど)を対象にして、特定の種類のアクションがなされた時に、自動で魔法が発動するように罠を仕掛けておく、というアクションの事である。
で、これを使って、自分を対象にした【看破】(や、それに類する技能)の発動というアクションがなされた時に、適当な魔法が発動するようにしておけば――。魔法の発動有無により、自分に対して【看破】が試みられた事を察知できる、……というワケだね。
ちなみに補足だけど、『カウンタースペル』に対抗する手段もいくつかあって。
カウンター発動した魔法の対象を移すことで対抗する【囮人形】という【消費具】とか、カウンター発動を強制起動する【隠されし
さて、ここでひとつ気になった点として……。
【看破】って、『発動』というアクションが必要な技能である。
つまり、常時効果を発揮しているワケではない
で、この馬車に乗ってから『【看破】を使用しました』みたいなログは出ていなかった気がするのだよね……。近くにいる人が技能を発動したら、普通、ログが出るものなのだけど。
と、疑問に思ってすえこさんに訊いてみたら、それも別の【魔術具】でカバー、つまりログが見えないようにできるらしい。
すえこさん、……抜け目ないね。
……というか、なんかちょっと、やり口が怖いよ~……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。