いたずら

眠衣

1


 中学校の入学式を終えて、教室で新しい担任やクラスメイト達と交流した後の帰り道、一緒に歩いていた幼馴染みが何か悩んでいたので、どうしたのか聞いてみた。


「私たちも中学生になったからさ、せっかくなら何か新しいことを始めたくて」

 何か悩んでいるのかと思ったけど、彼女の顔を見れば分かる。

 言い出すタイミングを考えていただけだと。

 もうやることは思いついてるんじゃないかと聞いたら案の定、彼女はとてもいい笑顔で、とても変なことを堂々と言った。


「今日から1日1回、キミにイタズラするね!」


 それから彼女は宣言通り、中学生活の日々の中で、小さいイタズラを毎日仕掛けてきた。


 知らない間にかわいいヘアピンをつけられていたり、飲み物がとっても苦い緑茶になっていたり、授業で使っているペンが彼女の物と入れ替わっていたり。


「私、将来は手品師になる!」

 昔からそう言って手品を練習していた彼女のことを思い出す。

 自分もよく彼女の練習に付き合って、何度も何度も彼女の手品に驚かされたものだ。

 手品が上手くできたときの彼女の輝いた笑顔に、いつしか惹かれていたことも思い出した。


 そんな手品師志望の彼女のイタズラは、いつやられているのか本当に分からなくて。

 今日はいつ仕掛けてくるのかドキドキする毎日を過ごしているうちに。


 いつの間にか、彼女のイタズラを楽しみにしてる自分がいることに気づいた。



 そして夏と冬の長期休暇を経てもイタズラの続く日々を過ごして、中学で初めて迎えたバレンタインデーの日。


 お昼休みに鞄の中を見ると、いつの間にかチョコレートがひとつ入っていた。

 形と手触りからただの板チョコだと分かったけれど、見慣れない包装紙に包まれている。

 包装紙の隅には彼女の名前が書かれていた。

 実にバレンタインデーらしいイタズラだと思う。

 だけど、彼女のイタズラにしてはシンプルすぎる気がする。



「一緒に帰ろー!」

 やっと最後の授業が終わって放課後になったとたん、彼女が席まで突進してきた。

 どうやら今日は手品研究部での部活動は無いらしい。

 ちょうどいいので、帰り道で彼女に聞いてみる。

 このチョコレートを入れたのが、今日のイタズラなのか。


「ふふ、そうだよ」


 イタズラがシンプルなこととか、続けて色々聞こうとしたけれど、考えていたことは全部どこかに飛んでしまった。


 急に彼女が近づいてきて、何か柔らかいものが、頬に触れたから。


 驚いて、彼女を見る。


「それ、本気のやつだから」


 そう言って彼女は、イタズラに微笑んでいた。


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いたずら 眠衣 @ArcB

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