不人気ダンジョンを改築し【デスゲーム“風”】ダンジョンを運営させて、バズらせる

杯 雪乃

デスゲーム風ダンジョン

絶体絶命


 しくじった。


 俺はそう思いながら、動けない体で何とかこの状況を打破しようと思考を巡らせる。


 俺は1人、相手は19人。


 しかも、どいつもこいつも俺より格上の存在である。


「クソッ........」


 今から200年ほど前。地球にダンジョンと呼ばれる存在が出現した。


 当時は相当な騒ぎであり、何百、何千万と言う人々がその被害に飲まれて死んで行ったらしい。


 物語でしか見た事が無いような魔物が出現するダンジョン。人類の持つ兵器だけでは対処のしようがなかった。


 しかし、ダンジョンの他にももう一つ、同時期に出現したものがある。


 覚醒者。


 魔力と呼ばれるエネルギーを体内に宿し、ファンタジーのように様々な事をする者達。彼らは、魔物と戦える力を手にしたのである。


 ある日突然、彼らは力を手にして英雄となったのだ。


 こうして、人類滅亡の危機は覚醒者という存在によって回避され、ダンジョンを資源として活用する時代が訪れる。


 そして今、覚醒者は“ハンター”と呼ばれ、ハンターという職業は一般的なものへと変化した。


 かくいう俺、千藤暁(せんどう あかつき)もその一人である。


 色々と事情があって12歳でハンターとなり、それから3年間、様々な経験をしながら今まで生きてきた。


 そして、15の春。


 一般的な家庭ならば入学や卒業、進級の準備に忙しくなる頃。


 俺は人生から卒業させられそうになっているのだ。


 冗談じゃない。


「如何なさいますか?」

「ふむ。久方ぶりの獲物だ。これで暫くは何とかするしかないか?」


 ここは、都会より少し離れたダンジョンの中。


 俺はここに、ある物が存在している希望を持って攻略に望んだ訳だが........相手が悪すぎた。


 魔物は基本的に、人の言葉を理解しない。


 知能が高くない魔物が多く、また魔物独自の言語があるらしいのでそれを使えば特に彼らが困ることは無い。


 それはつまり、逆に言えば人の言葉を理解できる魔物は知能が高い事になる。


 知能が高いと言うのは、それだけで厄介。


 人間の習性や行動原理を理解して、それに沿った狩りをしてくるのだから。


 本能の赴くままに攻撃はしてこない。


「しかし、これでだけでは足りませんよ?」

「そうなんよな。そこなんよな。困ったものだ全く」


 そして、こいつらは純粋に強い。


 態々それを狙った攻略だったとは言えど、俺を予想を遥かに上回る強さであった。


 最初は順調だった。


 強い割に得られるものが少なく、ハンター達が寄り付かないダンジョンを探し出して攻略を開始。


 ゴーレムと呼ばれる全身が岩でできた二足歩行の魔物を倒し続けて、サクサクと攻略を進めていた。


 しかし、現実とはそんなに上手くは行かないのも。


 あの人間にそっくりなメイド服の女が俺の前に現れた事で、俺は敗北。


 そして今、こうして捕まってしまっているのである。


 手足を縛られ、動けない状況。


 しかし、生かされている。


 この状況から、何とか脱出、生きて帰る為には何が必要なのか。


 それを今は必死に考えている最中である。


 俺を生かした事には理由があるはずだ。


 ダンジョンの魔物達は、人間を敵としてしか認識しておらず生かす価値が無い。


 殺し、殺され。


 それがダンジョンと人類の関係性である。


「........」


 強引に縄を引きちぎって逃げるようなことも出来なくはないが、それをした所で奴らに捕まるだけ。


 このダンジョン、本来想定していたはずの難易度よりも圧倒的に攻略難易度が高い。


 力勝負では、勝ち目がないのは戦っていて理解している。となれば、必要なのは言葉だ。


 幸い、奴らはこちらの言葉を理解している。


 会話もこちらの言葉を使っている。


 そして俺を生かして殺していない。


 その理由を探し出せれば、交渉というテーブルに付かせることが出来るかもしれない。


 考えろ。今はとにかく生き残ることだけに全てを捧げるんだ。


 俺が死んだら、も死ぬ。


「........なぁ、そこの小さな少年」

「何?人間。命乞いなら、主人にお願いするよ。ここでの決定権を持つのはあの方だからね」


 最初の綱渡り。


 会話の有無。


 言葉が話せるからと言って、会話が成り立つとは限らない。


 特に魔物と人間だ。こちらの言葉など意に介さない可能性だって十分にある。


 俺はこれがダメだったら流石に無理かもと思いつつも、近くにいた少年の姿をした魔物に話しかける。


 すると、思っていたよりもまともな返答が返ってきた。


 まるで人間と話しているような気分になるな。


 魔物の代表格とも言われる、ゴブリンやスライムとは全く違う。


 見た目も話し方も人間と遜色ない。


「命乞いは最終手段として、なぜ俺はまだ死んでいないんだ?ダンジョンは人間を殺す。それが世の理だろ?」

「こちらにもこちらの事情があるんだよ。それとも、今すぐにでも殺して欲しい?」

「それは勘弁して貰いたいね」


 事情があるのか。俺を簡単には殺せない。


 ダンジョンという存在について思い出してみよう。


 ダンジョンはある日突然地球上の至る所に出現し、人々を恐怖のどん底に陥れた存在。


 そして、現在では無限にも思えるその資源を活用するための場所である。


 ゲートと呼ばれる入口に入れば、そこは別の世界。ある人物は、異世界と地球を繋ぐための扉であるとか言ってたな。


 しかし、中には例外もあって、人類が敗北して手放した土地というものも存在する。


 逆に、ダンジョンに勝利した場所も。


 そう言えば、50年ほど前にダンジョンが脈絡もなく崩壊したと言う事が話題になっていたらしいな。


 ダンジョンはダンジョンコアと呼ばれる核が存在し、それを破壊するとダンジョンは死ぬ。


 しかし、そのダンジョンはあまりにも秘境に存在していたがために、人々が訪れることは無くダンジョンコアが破壊されたとは考えづらかった。


 そこで調査した結果、ひとつの仮説が生まれる。


“ダンジョンは人間の持つ生命力やエネルギーを糧に存在しているのではないか?”と言うものだ。


 当時、かなり話題になったらしいが、その時は既にダンジョンの資源ありきの世界になってしまっている。


 ダンジョンが出現してから150年の時が経過していたのだ。人は、ダンジョンが存在する世界が当たり前になっている。


 この理論はある種の禁忌。


 ダンジョンに入らなければ、ダンジョンは勝手に破壊されて本来あるべき世界が戻ってくるのではないか?と言う可能性を生み出している。


 ダンジョンで飯を食っている連中がその理論に対して黙っているはずもなく、相当な圧力で掻き消されたらしい。


 おかげで今じゃ都市伝説並のデマという事になっている。


 今ある社会を人は壊せなかったのだ。


 だが、それがもし真実ならば?


 少なくとも、多少なりともダンジョンは人間と言う資源がないと生きていけないのならば?


 可能性はゼロじゃない。


 ヤツらにとって、ここで俺を殺さずに飼い殺しにした方が何かと都合がいいのかもしれない。


 そこに漬け込んで、上手く話を合わせられれば俺は生きて帰れる希望が見えてくる。


 失敗した場合は死ぬかもしれないが、既に死が決まっているような状態だ。


 やるしかない。


「そこの少年。お前達の主様とやらと話がしたい」

「........本当に命乞いをするの?」

「いいや違う。命乞いなんて事はしない。した所で意味が無いのは分かっている。これは、交渉だ」


 さぁ、賭けの時間だ。


 交渉のテーブルに着くのかどうか、それしてその交渉が上手くいくのかどうかすら分からない、全てが博打の大勝負。


 俺はなんとしてでも、ここから生きて帰らねばらならいのだ。


 3年前、ダンジョンの事故に巻き込まれて未だに目を覚まさない弟の為にも。






 後書き。

 正午頃にもう1話更新します。

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