嘘と魔女
@SilentWitch
第1話 魔女の魔法
「世界で君だけを愛してる」
嘘である。
「君のためなら死んでも構わない」
嘘である。
「僕は君を愛するために生まれてきた」
嘘である。
これは嘘を見抜く力を持った魔女と呼ばれる女の子に惹かれていく男の子の物語。
—————————————————
4月8日 火曜日 7時25分 学校掲示板前
「真琴、クラス分け何組だった?」
「2組だったよ、悠真は?」
「やったぜ俺も2組だ、これで今年も宿題写し放題!」
「今年はみせないよ」
「なんでだよ!?」
「悠真のためにならないし、僕が見せるばかりじゃ僕にメリットないでしょ?」
「確かに…俺も何か真琴に見せないとフェアじゃないよな…よし分かった!高速反復横跳び10000回か高速片腕懸垂10000回、好きな方見せてやるよ。どっちがいい?」
「どっちって言われても…」
正直どっちも見たくない。
そんなくだらないやり取りをしていると、聞きなれない言葉が少し離れた場所から聞こえてきた。
「魔女と同じクラスかよ、ついてねぇ」
「魔女?」
僕が首を傾げると、悠真が少し驚いた様子で答えた。
「なんだ真琴、魔女の噂しらねぇのか」
「噂って?」
「なんでも、魔法で人の心を読んで精神をズタボロにしたり、気に入らない奴を病院送りにしたり、あらゆる男を誘惑して虜にできるらしいぜ。俺もよくはしらねぇけど」
「噂が本当なら相当危なそうだね…」
「噂をすればなんとやらだ。あいつだよ魔女って呼ばれてるのは」
悠真が僕の後ろを指を差しながら言った。
僕が振り返り魔女の姿を捉えると、そこには想像してた恐ろしい姿とは全くかけ離れた魔女の姿があった。
あの小柄で大人しそうな子が噂のようなことをするだろうか?
僕にはとてもそうは見えなかった。
—————————————————
4月16日 水曜日 13時52分 学食前
「わりぃ真琴、上履きが俺についてこれなくて、7021回しか出来なかった…」
底に穴の空いた高速反復横跳びの被害者を抱えた悠真が僕に謝ってきた。
「別に謝らなくてもいいよ、それより物は大事にしなくちゃだめだよ」
「あぁ…分かったよ…もうしない…」
これでもう悠真の高速反復横跳びを見ないで済む。そう思うと、僕の心はとても晴れ晴れとした気持ちになっていた。
「次からは裸足でやる!」
僕の晴れ晴れとした心は一瞬で打ち砕かれた。
「う、うん…怪我しないようにね…」
—————————————————
4月16日 水曜日 13時53分 学食
僕たちが学食に入ると自動販売機の方から荒々しい声が聞こえてきた。
「ちぃと小銭切らしちまってよ、貸してくれよ、のべ太」
「や、やめてよ、剛田君…」
のべ太君の胸ぐらを掴んで、剛田君がお金を要求していた。
僕たちが止めようと思い立ったと同時に女の子の声がした。
「剛田さん、少しお聞きしたい事があるのですが」
声のした方を振り向くと、そこには魔女の姿があった。
「魔女が俺に何の用だよ」
剛田君は少しイラついた様子で聞き返した。
「あのジュースは剛田さんのですか?」
魔女は剛田君の左後ろにあるテーブルに置かれたジュースに指を差し尋ねた。
剛田君は一度指を差された方を振り返った後、前を向き直して答えた。
「いや、あれは俺がここに来る前からあったぜ、俺のじゃねぇよ」
「そうですか、ではあの鞄は剛田さんのですか?」
今度は剛田君の右後ろにあるテーブルに置かれた鞄に指を差し尋ねた。
剛田君は再び指を差された方を振り返った後、前を向き直して答えた。
「いや、あれも俺のじゃねぇよ」
「なるほど、分かりました」
魔女は小さく頷いた後、剛田君を凍りつかせる指摘をした。
「剛田さん、小銭を切らしたという話、嘘ですよね?あるじゃないですか、左後ろのポケットの中に」
魔女の指摘に対して剛田君は動揺を隠せず、微動だにできなくなっていた。
まるで時を止める魔法をかけられたかのように。
こ、こいつなんで俺が嘘をついてるって分かったんだ。
それだけじゃない、小銭の場所まで当てやがった。
いったいどうやって…。
魔女は動揺する剛田君の心の声を読み上げて剛田君を更に追い詰めていく。
「こいつなんで俺が嘘をついてるって分かったんだ」
「小銭の場所まで当てやがった」
「いったいどうやって」
こ、こいつ俺の心を読んでやがる。
魔女の噂は本当だったんだ。
ってことは気に入らない奴を病院送りにするって噂も本当なのか…?
「行きます?病院」
魔女は剛田君に鋭い視線を向けて剛田君を威嚇した。
「ひぃ、ば、ばけもの!」
魔女の一言におびえた剛田君は全速力でその場から逃げ出した。
「ありがとう、助かったよ、雨宮さん」
のべ太君は深々と頭を下げて魔女にお礼を言った。
「いえ、私はただコーヒー牛乳を買うのに邪魔な人をどけただけですので」
魔女はそう言うとさっきまで剛田君がいた場所に立ちコーヒー牛乳を購入し、学食を後にした。
目の前で行われた魔女の魔法に感激した僕たちは話を聞くために魔女を追いかけた。
—————————————————
4月16日 水曜日 13時56分 南校舎一階廊下
「待って、雨宮さん!」
「綾瀬さん?と一ノ瀬さん?」
あっ、僕たちの名前知ってるんだ。
そう心の中でつぶやくと雨宮さんは僕の心を読んでこう返してきた。
「お二人は目立ってますからね、2組の生徒で知らない人はいませんよ。今日だって上履きに穴が開くまで一ノ瀬さんにダンスの特訓をさせていたでしょう?」
なんかめちゃくちゃ誤解されてる!?
「ご、誤解だよ…あれは悠真が勝手にやってるだけで…」
「分かってますよ、冗談です」
くすりと笑う雨宮さんを見ていると僕も自然と笑顔になっていた。
「それで、私に何の用です?」
「さっきの魔法について教えて欲しいんだ」
「俺も知りたいぜ、どうやったんだ?」
「綾瀬さん、一ノ瀬さん、この世に魔法なんて存在しませんよ」
「じゃあ、どうやって剛田君の心を読んだの?」
「ただ表情を読んでるだけです、剛田さんは顔に出やすいので、すごく分かりやすかったです」
「小銭の場所を当てたのは?」
「事前に行った二つの質問で確認したんです。一つ目の質問で右後ろのポケット、二つ目の質問で左後ろのポケット、小銭を持っているのは小銭のジャラジャラと擦れる音がしてたので事前に分かっていました」
そうか、ジュースや鞄を指を差して質問したのは剛田君を振り向かせて後ろのポケットの膨らみを見て小銭をもっているか確認するためだったんだ。
「それだけで分かるのか、すげーな雨宮」
「すごくなんかないですよ。私はただ人より少しだけいろんなものが見聞きできるだけです」
雨宮さんは窓の外を見上げながら少し寂しそうに呟いた。
「じゃあ、魔女の噂は全部嘘ってこと?」
「悪い噂というのは尾ひれがついて広がっていくものです。全くの嘘という訳ではありませんが拡大解釈されてるのは間違いありませんね」
「ってことは尾ひれがついた噂のせいで雨宮は悪く言われて孤立してたのかよ。ひでぇ話だぜ」
「いえ、私はどう言われようと構いませんし、一人でも平気ですので」
雨宮さんは少し俯きながらそう言った。
一人。
雨宮さんは悠真と出会う前の僕と同じだった。
悠真の方を振り返ると、悠真も察したようでこちらを見て深く頷いた。
「よし決めたぜ、俺は今から魔女の噂根絶隊の隊長になる!」
「へ?」
突然の悠真の素っ頓狂な発言に雨宮さんはキョトンとした顔をしていた。
「僕も入隊しようかな!」
「綾瀬さんまで何を言ってるんです!?」
雨宮さんは僕たちの発言にあたふたしていた。
「お気持ちは嬉しいのですが、お二人にも迷惑でしょうし…」
「迷惑なんてとんでもない!」
「俺たちが勝手に始めるだけだぜ」
「雨宮さんも良かったら手伝ってよ」
僕は微笑みながら雨宮さんに手を差し出した。
「まぁ、お手伝いするくらいでしたら…」
雨宮さんは少し恥じらいながら手を取り僕の提案を受け入れてくれた。
こうして僕たちは魔女の噂を根絶するための活動を開始した。
—————————————————-
おまけ
“世界で君だけを愛してる”
「世界で君だけをなんて言葉を付けなくても普通の人が一度に愛せるのは一人だけです、わざわざその言葉を付けるのは自分が一度に複数の人を愛せると自白してるようなものです、そんな人を信用してはいけません」
“君のためなら死んでも構わない”
「人間には生存本能というものがあって簡単に死ねないようになっています、それを口説き文句で使おうなんて輩は100%嘘つきです」
“僕は君を愛するために生まれてきた”
「そんな訳ないです」
「皆さんも騙されないように気をつけてくださいね」
嘘と魔女 @SilentWitch
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嘘と魔女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます