第三章第15話 リズムの地図

 納屋の外を、列車の音が通り過ぎていった。


 カタン、カタン……。


 海の向こうから風に乗って届くそのリズムは、村では珍しいものではない。

 しかしモニターの波形がそれに合わせて揺れているのを見ると、タケルには偶然とは思えなかった。


「列車の振動……?」


 タケルはログを呼び出し、時間軸を拡大した。

 画面に並ぶ波形の山と谷。

 その周期を、先ほど記録された共鳴と重ねてみる。

 ほとんど同じだった。

 レールの継ぎ目を車輪が越えるリズムと、空間の共鳴。


「……似てる」


 思わずつぶやく。

 後ろで海が椅子に腰掛けた。


「さっきの列車?」

「ああ」


 タケルは頷く。


「レールの継ぎ目のリズムと、この共鳴の周期が近い」


 画面に新しいグラフを表示する。

 二つの波形を重ねると、驚くほどきれいに並んだ。

 海が静かに言った。


「じゃあ、あの音が鍵なの?」

「たぶん」


 タケルは腕を組む。

 もしこのリズムを正確に再現できれば、共鳴の波形を安定させられるかもしれない。だが列車が奏でるリズムの波形は複雑だった。


 列車の速度——

 レールの間隔——

 車両の重量——


 それらが微妙に重なり合っている。


「人間の計算じゃ追いつかないな……」


 タケルは端末の奥にあるフォルダを開いた。

 そこには、長いあいだ眠らせていたプログラムがある。

 東京にいたころ、研究の補助として作った解析AI。

 タケルはしばらく画面を見つめた。


「そろそろ起こすか」


 キーボードを叩く。

 数秒後、黒い画面に文字が浮かび上がった。


SYSTEM ONLINE


 続いて、簡素なメッセージ。


YAMATO 起動しました


 海が画面を覗き込む。


「ヤマト?」

「昔作った解析AIだ」


 タケルは少し照れくさそうに笑った。


「犬の名前から取った」


 画面に新しい文字が並び始める。


解析対象:共鳴ログ

同期パターン探索開始


 納屋の外では、風が海の匂いを運んできた。

 そして遠くで、また列車の音が聞こえた。


 カタン、カタン……。


 そのリズムを、今度はAIが聴いていた。

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