女子高生ファイター、舞。

Wildvogel

第一話 「あいつらを止めて……」

「じゃあね、まい


 クラスメイトの女子生徒の言葉に笑顔で右手を振り、北東ほくとう学園高校二年二組、早川舞はやかわまいはペンケースをバッグにしまう。


 そしてバッグを左手に持ち、二年二組の教室を後にした。


 舞は才色兼備さいしょくけんびという言葉がよく似合う優等生だ。


 クラスメイトの男子生徒から人気が高く、マドンナのような存在である。


 

 舞は校舎を後にし、最寄り駅である中町なかまち駅に続く道を歩んでいく。


 十月の涼しい風を浴び、ショートカットの後ろ髪が泳ぐようになびく。


 校舎を後にしてから十五分ほどして、中町駅の駅舎が舞の目に飛び込む。


 舞は定期券を抜き取ろうと、バッグのファスナーを開けようとした。


 次の瞬間、女性の叫び声が舞の手と足の動きを止め、顔を上げさせる。


 舞の目には、女性がゆっくりと倒れ込む光景がうつしだされる。


 舞は絶句し、時が止まったようにその場に立ち尽くす。


 それから十秒ほどして、舞の足を進めさせるような追い風が吹き抜ける。舞の足はその風に乗るように女性の元に歩みを進めていく。


 やがて女性の目の前に立つと、ゆっくりとしゃがみ込み、声をかける。


「あの……大丈夫ですか?」


 舞の目の前でうつぶせの状態で倒れている二十代と思われるロングヘアーの女性に反応はない。


 舞は引き続き声をかけるが、女性は声を発することも、動作を見せることもなかった。


 舞は困ったように周囲を見渡すが、そこに人の気配はない。


「と、とりあえず、救急車を……」


 舞の右手がブレザーの胸ポケットに伸び、スマートフォンを握る。


 やがて、通話アプリを開き、画面をタップしようとした。


 その時――。


「あいつらを……」


 女性のかすれるような声で、舞の視線はスマートフォンの画面から再び目の前の女性に向く。


「あいつらを……」


 同じ言葉を繰り返すと、女性の視線が舞に向く。


 目の前の女性は、こめかみの辺りから血を流していた。


 彼女の姿を目の当たりにした舞の表情が険しくなる。


 女性はゆっくりと左手を伸ばすと、舞の左腕をやさしく握る。


「あいつらを止めて……このままじゃ、この街が……」


 舞の左腕から女性の手のひらのやわらかい感触が消える。


 再びうつぶせの状態になった女性の姿がうつしだされると、舞の瞳の奥に熱が帯び始める。


 女性の言うの正体はこの時、分からない。まずは、その正体を探らなければならない。


 目の前の女性は舞が声をかけても、反応を見せない。


 手がかりは、ないに等しい状況だ。

 


 舞は唸るように息をつくと、再びスマートフォンの画面に視線を注ぎ、三桁の番号を打ち始めた。

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