無職日記
脳病院 転職斎
第1話
2019年2月から2021年6月まで、
俺は無職だった。
この間で精神科に入院すること3回。
精神科デイケア、職業訓練校、障害者就労移行支援を経て、3年かけて俺は社会復帰に成功した。
20代後半の貴重な3年間は失われてしまい、過ごせなかった青春は二度と戻って来ない。
いや、あるいはこの3年間も青春だったのかも?
働けなくなって生活保護を受給していた頃、毎月10万円で生活していたのでどこにも外出に行けず、恥ずかしくて友人に言うことも出来ず、友達を作らずに社会から孤立して過ごして来た。
そんな一日の中で唯一の贅沢は、YouTubeで飯テロ動画を見ながら食べるカップヌードル。
真っ暗闇の部屋に居て、ポケカラでひたすら椎名林檎の歌を聞き、別れた元嫁への未練に駆られた時にはひたすら絵を描いた。
だけど、こんなナメクジみたいな生活をずっと続けたくは無い。俺は離婚してすぐに職業訓練校に通った。
周囲に自分が生活保護とは言えずに。
蝉の声を聞く度に 目に浮かぶ九十九里浜
皺々の祖母の手を離れ 独りで訪れた歓楽街
ママは此処の女王様 生き写しの様なあたし
誰しもが手を伸べて 子供ながらに魅せられた歓楽街
十五に成ったあたしを 置いて女王は消えた
毎週金曜日に来ていた男と暮らすのだろう
“一度栄し者でも必ずや衰えゆく”
その意味を知る時を迎え足を踏み入れたは歓楽街
消えて行った女を憎めど夏は今
女王と云う肩書きを誇らしげに掲げる
女に成ったあたしが売るのは自分だけで
同情を欲した時に全てを失うだろう
JR新宿駅の東口を出たら
其処はあたしの庭 大遊戯場歌舞伎町
Oh Oh
今夜からは此の町で娘のあたしが女王
〜貧乏神〜
最初こそ俺は、職業訓練校で真面目に勉強に取り組んでいたものの、頑張っていても月10万円で生活するしかない現実に打ちのめされて、段々と集中力が途切れるようになった。
それからというもの、教室ではいつも貧乏揺すり(本物の貧乏揺すり)をし、鼻くそをほじり、休憩時間にはなけなしのお金でタバコを吸って、ダラダラダラダラと過ごしていた。
そんなゴミムシみたいな俺だったが、いつも一緒に雑談をしていた職業訓練校の35歳女性に恋をしてしまったこともある。
しかし、職業訓練校卒業時の打ち上げパーティーも自費で払うことが出来ず、親からお金を借りてかろうじて参加するほどの貧乏だったので、あなたのことが好きですとは口が裂けても言えなかった。
そして二回目の打ち上げパーティーに参加した後、俺と女性は帰り道が同じだったので偶然、夜の駅のホームで2人きりになった。それから、どちらから切り出したかは覚えていないが自然と雑談が始まった。そして、
「ところでワタル君は、一人暮らししながら職業訓練校に通っていたの?」
と、女性に尋ねられた。
(実は僕は生活保護なんです)
全て包み隠さず打ち明けようか迷ったが、俺の小さな声は回送列車の走行音にかき消された。
このままじゃいかんそっちゃ!俺はこんな無様な俺でいたくねえんじゃ!
2021年6月、
俺は就労移行支援を経て介護職の正社員として採用され、3年ぶりに社会復帰した。
それから二度と、
その女性と会うことは無かった。
叶わなかった恋だった。
好きです 好きです 心から
愛していますよと
甘い言葉の裏には
一人暮しの寂しさがあった
寂しさゆえに 愛が芽ばえ
お互いを知って愛が終わる
別れは涙で飾るもの
笑えばなおさらみじめになるでしょう
こんなに好きにさせといて
「勝手に好きになった」はないでしょう
さかうらみするわけじゃないけど
本当にあなたは ひどい人だわ
だから私の恋は いつも
巡り巡って ふりだしよ
いつまでたっても恋の矢は
あなたの胸には ささらない
タバコを吸うなとか 酒を飲むなとか
私の勝手じゃないの
好きでもないくせに好きな
振りをするのはよして欲しいわ
くやしいけれど ほれたのは
どうやら私の方だったみたい
「別れの舞台はどこで?」などと
おどけてみせるのもこれで最後ね
さよなら さよなら 心かよわぬ
恋などさようなら
こらえきれない涙よ
出来る事なら笑いとなれ
だから私の恋は いつも
巡り巡って ふりだしよ
いつまでたっても恋の矢は
あなたの胸には ささらない
だから私の恋は いつも
巡り巡って ふりだしよ
いつまでたっても恋の矢は
あなたの胸には ささらない
無職日記 脳病院 転職斎 @wataruze
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