魔法の鏡の使い道
Side エドワード
誰もが私が気狂いを起こしたのではないかと思っていた。それもそうだろう。兵を集めて執務室に向かったのだから。
そして誰もが息を吞んだ。
執務室の本棚から本を取り出せば、道が開かれる。その道を進めば、彼女との会話を楽しんだ離れの鏡へと繋がるのだ。こちらから見た離れには誰もいない様子だった。そっと鏡を開けて中に入れば、窓から見える光景に誰もが驚きを隠せないようだった。
「繋がってたんっすね」
やっとの言葉を吐いたのはエミリアの護衛騎士、ギルベルト・アーウィン。その驚きは他の騎士たちも同じだった。一番先に部屋に入り、そして自分が書き置いた手紙を見つける。その手紙は封筒から出ており、折りたたまれていた。
開いた端に書かれている言葉。
“待っている”
に斜線が引かれ、もう一つ
“娘と一緒でいいのなら迎えに来て”
彼女の文字で書かれたその文をなぞった。懐かしい彼女の文字は記憶よりも少しだけ大人びていた。
『王妃が逃げたぞ!!』
『もう一人もいない!!』
外で飛び交う怒号。逃げた、その瞬間に誰もが武器を構えた。もちろん、私もだ。
「城を奪還せよ!!」
私の言葉に騎士たちは我先にと走り出した。驚いたのは帝国の兵で、不意を突かれたせいなのか、人数が少ない。いや、多分だがこの城につながる道に兵を配備したら、王城内は手薄となる。好機だ!!
「ギルベルト、ギャロン、お前たちは王妃を知っている!!共に来い!!」
「「はっ!!」」
次から次へと湧き出す帝国兵を次から次へとなぎ倒していけば、王城の庭園に辿り着いた。エミリアは居ない、そう思いながら城へと向かう。
「王妃様っ!!」
焦るような女性の声。
その先では足がもつれて地に倒れ込むエミリア。
彼女の手が私に向かって伸びている。
背後で振り上げられる剣。
「エミリア!!」
叫んだ声と共に、弓の撓る音が響き、背後から矢が飛んでいく。その矢は真っ直ぐに剣を振り下ろそうとした男の肩に刺さった。走り出して、その男を切り捨てれば、彼女と目が合った。
「え、エドワード、様?」
まるで幽霊でも見たかのような顔で彼女は私を見上げてきた。彼女と視線を合わせるために跪いて、そして彼女の手を取った。
「ほん、もの?」
「ああ、エミリア。迎えに来たよ。」
その言葉に彼女の涙が決壊したように流れ出した。ぽろぽろと落ちていく雫は止め方を知らないようだった。思わずその身体を抱きしめた。昔よりは成長しているが、自分が想像していたよりも細い体。折れてしまうのではないかと思うほど、その体は小さかった。
「お二方、申し訳ないんですが、ここ戦場なので後にできませんか?」
急に響いたのはギルベルトの言葉だった。周りの騎士たちは私たちを守るように戦っていた。
「まあ、アーウィン卿。そこは邪魔せず守りきるのが騎士でございましょう?」
そう言いながら目の前の兵士を切りつけ、尚且つ地に伏した男の急所を遠慮なく踏みつけたケルビー侯爵夫人。敵味方問わず、その光景に薄ら寒くなったのは間違いではないだろう。敵味方を問わず続々と集まる兵。どうやら敵兵も馬鹿ではないらしく、防衛に当てていた兵を召集し、徐々に場内の軍勢を増やしていた。
「まずいですわ、王弟殿下!!すぐに王妃様を連れて離脱くださいっ!!」
状況が良く見えているケルビー侯爵夫人はそう叫んだ。そう言いつつも敵をなぎ倒す侯爵夫人は騎士並みに強いのではないかと、冷静に思った。そしてケルビー侯爵が大丈夫といった理由も頷けた気がした。
「大丈夫だ、そろそろ来るはずだ。」
その言葉に誰もが奮起した。オーウェン王国からの強行軍に付き合った騎士たちはその言葉に大きく頷くのだった。
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