幸か不幸か

Side ギルベルト


普通の馬では走れないような道を使って追跡の軍団を巻いた。おかげで馬は使い物にならなくなり、尚且つ、王都の近くに戻ってきてしまった。それ自体は仕方ない。しかし、俺とギャロンは騎士であってこの程度ではどうにかなる。しかし、侯爵令嬢で更にまだ9歳の子供であるリリアン様と、侍女のマリアはそうはいかない。二人とも限界に近いのだろう。必死で歩いているが、もう、体力的にはいつ倒れてもおかしくはない。


「リリアン様、無礼かもしれないが許してくれ。」


そう言いながら幼い彼女の身体を抱き上げた。


「あ、アーウィン卿。私、歩きますよ?」


「これ以上はダメだ。深窓の令嬢が歩き続ける道じゃない。」


そう言えば、彼女は疲れていたのだろう、反論することはなかった。まだ9歳の子供が泣きごとも言わずに歩き続けていたのは、それだけ、彼女は耐えることに慣れているのだろう。それ以上に、王妃も、姫も耐えているのだろう。貴族は高い地位に行けば行くほど耐えることが多いんだろうな、と子爵家に生まれた自分には縁がないことを考えた。


まあ、だからこそ、貴族の義務に徹する王妃様や姫様を守りたくなるんだろうな。


「きゃっ!!ギャロン様!!」


「マリア殿。静かにしてください。」


突然の妹の叫び声に振り返れば、荷物を持つように担がれた妹の姿が目に入った。顔色が悪くなりつつあるマリア。正直、心配だったから助かった。ギャロンは何も言わずに歩き出した。


「ギャロン、確かこの辺りに王弟殿下の屋敷あったよな?」


「ああ、多分だが、そこそこの武器庫を持っていたはずだ。」


「ありがたい。もう矢が切れそうなんでな。」


そんな会話をしながらこっそりと王弟殿下の屋敷に近づいた。こっそりと門の方ではなく、塀の方から侵入しようと裏手の森に向かった。そしてギャロンがいきなり剣を抜き、咄嗟にマリアを俺に投げつけた。


「え!?」


マリアは悲鳴を上げる間もなく、俺の元に降ってくる。咄嗟に片手で受け止めたが、一番驚いたのは剣を受け止めていた男だった。


「王弟殿下!?」


ギャロンの叫び声に俺も、マリアも、そしてリリアン様も目を丸くしてその男を確認した。銀色の髪に紫色の瞳。何度かその姿は見たことがあった。剣術の腕で言えば近衛騎士のトップと言っても過言ではないギャロンの剣を簡単に受け止めた王弟殿下に皆、言葉を喪っていた。


「ハンツ卿にアーウィン卿と、アーウィン子爵令嬢にケルビー侯爵令嬢か。エレノアを逃がすために囮となったと聞いていたが、良く生き延びた!」


その言葉にハッとなり、ギャロンは剣を降ろして跪いた。慌てるように俺も、マリアも、そしてリリアン様も同じ礼を執る。


「これから屋敷に入る。付いておいで。」


柔らかな声で王弟殿下は笑い、そして剣を納めた。どうしていいか分からないが、彼の背中を追いかけるように表の門に行けば、門を守っていた兵士は気にすることもなく門を開く。


「誰か、リリアン嬢とマリア嬢の手当てをしてくれ。」


屋敷の中の身なりの良い男にそう指示をすれば、数名の侍女が小走りで来て、そしてリリアン様とマリアは連れていかれる。


「さて、二人に聞きたいのだが、まだ身体は動くかい?」


その強い瞳に思わず背中がぞわりとしたのは、気のせいではなかっただろう。



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