魔法が解けるのは夜が定石
Side エドワード
エレノア姫のお披露目はつつがなく終わった。ただ、一つ気になったのはエミリアの表情が暗かった事。つくろってはいるが、それがどうしようもなく気になった。王は開会宣言と共に席を外し、王妃と姫が舞踏会を仕切っていた。ふう、と人の群れから逃げ出してバルコニーへと出てきた。夜風は僅かに取ったアルコールを吹き飛ばしてくれるようだった。
「あら。」
幼い子供の声。振り返れば、そこには今日の主役たるエレノア姫の姿があった。もちろんその付添人のケルビー侯爵夫人も一緒だが。
「これはエレノア姫。お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとうございます。エドワード叔父様。姫と呼ばれるのは好きではありませんので、どうぞ、エレノアと。」
「ありがとうございます、エレノア。」
そう言いながら見せたカーテシーはエミリアのカーテシーとよく似ていた。ふと視線を上のバルコニー向けた。少し欠け始めた月に照らされる紫のドレスを纏った王妃。彼女も風に当たるために、王族用の休憩室からバルコニーへ出たのだろう。
ぱさっと扇の開く音、そしてエレノアは扇で口元隠してから小さく笑った。
「叔父様、エミリアお義母様の事をどう思われます?」
「エミ……王妃様は素晴らしい方ですね。あの王を抑え込まれて付け入るスキがないように国を守っている。」
もはや、王は王たる役目を完全に放棄していた。しかし体面を保つために、ケルビー侯爵が動き回っていた。誰がどう見てもケルビー侯爵は王ではなく、王妃と姫に忠誠を誓っている。
「ええ、お義母様は一人で戦っているの。だから私はお義母様を守ってくれる人を探しています。」
そう言いながら彼女は9歳とは思えない強い視線を向けてきた。漆黒の髪と、紫水晶の瞳。それがジッと私を見るのだ。
「エドワード叔父様。今、この国で王に代われるのは誰?」
わかりきった質問をこの少女は投げてきた。いや、この年の少女では本来は分からないだろう。しかし、この強い少女を作ってしまったのは国であり、我々大人の責任だ。
「エレノア、私にそれを答えることはできない。」
「そう。」
小さく答えたエレノアは扇を降ろした。話は終わった、ということだろう。
コツ、コツと軽やかな足音。聞こえてきた足音の先には紫のドレスを纏った、紅茶色の髪の女性。
「お義母様!!」
少女は年相応の笑顔を浮かべてその女性に抱き着いた。
「まあ、大きくなったのに甘えん坊なのは変わりませんね?」
柔らかく、聖母のような表情でエレノアを包んだ女性。月一度の会話でしか接点のなかったエミリアが触れられる距離にいるのだ。
「あら、エドワード様。お久しぶりでございます。お変わりありませんか?」
私の姿に気が付いた彼女は笑いかけてきた。面と向かって合うのは子供時代以来かもしれない。
「お久しぶりです、王妃様。」
言葉を掛けた瞬間、エミリアの顔が引きつった。驚愕するようなその表情。
「……鏡。」
小さく呟いた言葉。声だ、そう思った。彼女と話すのは声変わり以前だった。そして、彼女は『魔法の鏡』の正体を知ってしまったのだろう。
「今日は楽しい舞踏会でした。エレノア、次の舞踏会があれば私と踊っておくれ。」
逃げるように、屋敷に帰ることを選んだ。どちらにしても彼女とはしばらく会えない。王の代わりにオーウェン王国に同盟継続の打診に行くからだ。
「エミリア。」
小さく呟いた言葉と共に、彼女が離れに来訪した音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます