隣人観察日記

@Zyodan

第1話 4月20日

 僕が住んでいるアパートは木造2階建で部屋は全部で8部屋。

 家賃は3万5千円で、僕は2階の一番奥にある角部屋に住んでいる。

 最初から何を書いているのだろうと自分でも思うが、まずはその辺りの状況を書いておかないと記録しにくいから書いておく。


 前置きは置いておいて本題から入ると、僕の隣に住んでいる隣人が少しおかしい。

 いや、少しどころではなくかなりおかしいからとにかく早く引っ越したいレベルなのだ。


 別に奇声をあげたり騒いでいるわけではなく、むしろ静か過ぎてここに来て最初の1週間は隣人がいる事を知らなかったぐらいだ。

 ※あくまで記載しておくが、引越し時には勿論挨拶に伺ったが不在だったのだ


 じゃあなぜ引っ越して3週間程度でまた引っ越そうとしているのか?

 それはあまりにも隣人が不気味すぎるからに他ならない。


 初めて会ったのは確か4月9日で、授業が終わって帰宅したのが6時50分ぐらいだったと思う。

 アパートの階段を上ると19時にならないと電気が点かない薄暗い廊下があるのだが、一番奥の自分の部屋前に誰かがいた。

 不気味に思いながら近づいて行くと、だんだんとその姿が見えてきた。

 腰まで届きそうな長い黒髪の女だった。

 服装は真っ赤なワンピースを着ているのだが、その上から黒いカーディガンを羽織っており、腕は見えない。

 そんなホラー映画に出てきそうな見た目をした女が明かりもないのに何故か部屋の前に無言で立ち続けている。


 怖いなんてものじゃない。


 とりあえずどこかで時間を潰してから帰宅しようと思い階段を降りて引き返そうとした。

 そしたら『⚪︎⚪︎さんですか』と背後から名前を呼ばれ、微かにモーター音の様な音が聞こえた。

 ドキッとして立ち止まり恐る恐る振り返ると目の前に女がいた。

 顔は何と書いたら良いのか分からないが、まるで能面を被っているような何とも言えない無表情だった。

 不気味でしかなかったが、名前で呼ばれて反応してしまったことから今更逃げられないので『はい…』と返事をした。

 すると女はこう言った。

 『初めまして。隣の部屋に住んでいる阿川と申します。どうぞよろしくお願い致します。』


 なんとお隣さんだったのだ。

 僕も思わず『ご挨拶が遅くなって申し訳ございません。⚪︎⚪︎と申します。お騒がせするかもしれませんが、何卒よろしくお願い致します。』と返した。

 女…阿川さんは『こちらこそ…』と言い引き返して薄暗い廊下を歩き始めた。

 また微かにモーター音が聞こえた気がした。

 阿川さんが自分の部屋のドアノブに手をかけた時、ドアノブが少し赤く光ったような気がしたが、すぐにドアを開け入っていた。

 阿川さんが部屋に入ったのを確認してから僕も自分の部屋に向かった。

 薄暗い廊下の中、阿川さんの部屋前を通った時にまた赤い光が見えた。

 ちょうどドアの覗き穴の位置が光っていた。

 僕は深く考えないように通り過ぎ、さっさと部屋に入った。

 部屋の電気をつけた瞬間、疑問が溢れてきた。

 一体僕の部屋の前で何をしてたのだろう?

 そもそも表札もあげてないのに何故名前を知っているのか?

 微かに聞こえたモーター音は何?

 覗き穴から見えた赤い光は何?


 とりあえず、バイト増やして引っ越そうとその時に決意した。

 




 


 

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