真夏の夜の銃声

@scscjofjwef

いい世、来いよ

20XX年、日本と中国が戦争になった近未来でのことだ。


戦場の塹壕で、俺は敵の中国兵、その若い男に銃口を突きつけられていた。

もはやここまでだ、そう思った。


しかし妙だ。


(なぜだ・・・?

何故一思いに殺さない・・・?)


戦況は地獄でもはやここに”人間”は誰一人いないとすらいえる。

俺も含めてだ。

ここにいる奴に今更仏心、いや人間の心も残っているとは到底思えない。


男は、黙って、じっと俺の顔を見ている。

まるで何かを見定めるような冷たい目だ。


(・・・拷問か?)


だが自分のような下級兵が持つ情報などない・・・。

つまりは、それは”拷問の体を為した憂さ晴らし”になることを意味している。

すでに、何人もそういうケースにでくわしてる。俺たちは今、敵味方問わず、誰彼構うことなく嗜虐的だ。そういう道具になってしまっているのだ。

一度そうなればもう後には引くことができはしない。

みんなで仲良く崖の向こうまで走るだけだ。


(肉体を使ったおもちゃになるくらいなら・・・)と、俺は、舌を噛み切る準備をした。

母親と父親が与えてくれた歯と舌を、食べ物を食べ、愛をかたる器官をこんな風に使いたくはないが、背に腹は代えられぬのだ。覚悟を決めなければ、”死ぬことすら許されなくもなる”。

俺は最悪の想像にむしろ勇気づけられた。

(さあ、力をこめろ!噛み切れ!!自分で終わらせろ!!)


そのときだ。

男は俺に言った。

驚いたことに流暢な日本語だった。


「じゃあ、まず……年齢をおしえてくれるかな?」


俺は反射的に歯に入れている力を緩め答えた。

口に血の味が広がる。

血反吐を垂れ流しながら俺はかすれた声で言った。

「・・・24歳、学生をしてます・・・。」

なぜそんなことを言ったかは自分でも分からない。

だって全くのデタラメなのだ。


でも彼は、ゆっくりと銃を下ろしたのだ。



(FIN)

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