第2話 面接
だから僕は【筆師】に会いに行く事を決めた。
ありのままの、僕のままで……。
行こうと決めたのだ。
ーー次の日
【
開け放った扉の先は、真っ白な空間が広がっている。
ーーすごい!!
僕より驚いた顔をしているのは、開け放った扉の先にいる人々だった。
「わあーー。見てみて」
「やっぱり青葉先生、凄いわよね」
「やっぱり、カリスマよね」
僕の顔を見て、目の前の椅子に座る人達が口々に言っている。
「いらっしゃいませ」
「あの、青葉先生にお会いしたいのですが……」
「ご予約は?」
「いえ」
「でしたら……」
「あっ、昨日、居酒屋で会ったものですと伝えて下さい」
受付の人は、ジロリと僕を見てから「わかりました」と言って電話をかけた。
「暫く、かけてお待ち下さい」
僕は、青色の長椅子に腰かける。
周りの人がジロジロと見てくる。
何とも居心地が悪い。
一人、また一人と診察室に入って出て行くのを僕もチラチラと横目で見ていた。
13時を過ぎた辺りには、ようやくお客さんは僕一人だけになった。
そして、名前が呼ばれる。
診察室に入ってすぐに、彼は僕をちらりと見るなり、こう告げた。
「合格だ」
「えっ?ここで働かせてくれるのですか?」
「ああ、構わないよ」
青葉先生は、僕の顔を見て嬉しそうに笑っている。
「夏目君」
「はい」
「筆師は、オリジナルの造形美を持った人間しかなれないって調べてここにやってきたのかな?」
「はい。ただ、それが、よくわからなかったので……。僕がオリジナルなのか聞いてみたい。そう思ったから、ここに」
「そうか」
青葉先生は、頷きながらニコニコ笑う。
「今まで、辛い想いを沢山してきただろう?」
「どうして、わかるのですか?」
「かつての私も君と同じだったからね」
「僕、ずっとモデルになりたかったんです」
青葉先生の言葉に諦めた夢を口に出していた。
「昔なら、君のその端正な顔立ちは、みんなの憧れの対象だっただろうね。だから、一発で合格しただろう。でも、今は違うね」
青葉先生は、僕の頬に触れる。
その目は、少し悲しそうだ。
「君の顔は、今の世の中じゃ、オリジナルじゃないんだ。この顔を持つものはオーダー品って呼ばれてる。今の芸能人を見た事があるだろ?」
「はい」
「みんな、はにわや土偶みたいな顔をしているだろ。だって、美男美女なんて。この筆一本で造られるから。世の中には、ありふれた顔になったんだよ」
青葉先生は、悲しそうに目を伏せながら僕の頬からゆっくりと手を離した。
青葉先生の気持ちが、痛いほどわかる。
「だけどオリジナルで。ここまでの造形美を持っている人間を、私は初めてみたよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だよ!だから、夏目君は合格だ」
「青葉先生、嬉しいです」
初めてだった。
オーダーと言われ続けたこの顔を褒めてくれる人に出会ったのは……。
「ハハハ、泣かない、泣かな
い」
青葉先生は、僕の頭を優しく撫でてくれる。
「夏目君、【筆師】はね!顔をいじっているものには、なれないんだよ。夏目君がオリジナルかどうかハッキリさせてみようか。まあ、私は君がオリジナルであることはわかっているんだけどね」
青葉先生は、アタッシュケースから、筆を1本取り出して僕に握らせた。
「
「はい」
真麻と呼ばれた女の人が現れる。
「鼻を高くしたいんだったね?」
「はい」
「それじゃあ、始めようか」
青葉先生は僕の手に筆を握らせてから、一緒に動かしはじめる。
僕がオーダーかオリジナルか。
僕自身もよくわからない。
だから、ここに来たんだ。
どうか。
オリジナルであって欲しい。
「夏目君、私の動きを覚えるんだよ」
「はい」
「まずは、鼻筋に向かって上に、そして優しく下におろす。この時、いきすぎると鼻の頭が伸びすぎるから、きちんとここで止める。わかった?」
「はい」
青葉先生は、僕からそっと手を離す。
僕は、青葉先生の動きをしっかりと覚える。
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