供養
きゅーちゃん
第1話
暑かった夏も過ぎ、すっかりと涼しくなったある日のことだった。
あの日のことを、追体験してもらうね。
いつも通りに仕事をこなし、帰り支度ももうすぐ終わろうとしていた時のこと。
急なタスクが舞い込んだとのことで1時間ほど残ってくれないかと打診された。
正直乗り気ではなかったが、これで少しでも株が上がってくれればいいかという気持ちもあり引き受けることにした。
そう大したタスクではない、と高をくくったのが悪かった。気づけば1時間半が経とうとしていた。
幸いだったのは、話し相手がいたことだろうか。
2人でこれだけの時間がかかっているのだから、1人だったらどれくらいの時間かかっていたのだろうかと考えるだけでも嫌になる。
早く帰ってお風呂に入ってご飯を食べたい、もはやその思考しかなくなっていた。
話し相手とは言ったが、会社の同僚という位置づけでありそれ以上でもそれ以下でもないのだが。
そうして2時間が経ったころやっとタスクが片付いた。
どこが1時間ほど残ってくれないかなんだよ、なんて思いながら帰路につく。
さっき話し相手と言っていたやつが追いかけてきた。忘れ物でもしてしまったのだろうか。
そう思っていると突拍子もないことを言い出した。ご飯でも食べませんかだと。
いつもだったら絶対にOKしないし、さっさと帰りたいという気持ちも強かったのに、気が向いたのか気まぐれだったのかわからないがその日はなぜかそうした。
おごりならいってやってもいいぞ、なんて少し意地悪だったかな。
そうしたら子供のようにはしゃぐもんだから少し恥ずかしかったよ。
オシャレな店に連れていけ、とは言わないけどさすがにラーメンはないでしょ、なんて思っていたけどあのラーメンは今でもお気に入り。
結構おいしくて、思ったよりやるじゃんって、すこし見直したんだよね。
食べたあとに少し歩きませんかなんて言われて、ちょっと乗り気になってきてたから賛成した。
近くに高台があって、夜景が綺麗だっていうから少し期待してしまった。
一面に広がる建物の灯り、まるで花火を地面に落としたかのように。
夜景が綺麗だってのは嘘じゃなかった、いつも嘘みたいなことばかり言ってるから。
半径2メートル、人によっては近いし人によっては遠いんだろう。
あの時は近いって思ってたけど、今じゃ遠いって感じる。同じ気持ちだったのかな。
それからというもの、一緒に食事をする機会が増えた。
決まって最後はあの高台に行く、お決まりのルートになっていた。
でも今日は何かが違う、そう直感的に感じたのは間違いではなかった。
なにが、と言われるとわからなかった。勘がそういっていた。
それはすぐわかることになるのだけれど。
手に持たれた一輪の花、赤いバラ。
それが何を意味するか理解するのに時間はかからなかった。
狐につままれるとはこういうことなのだろう。
実際のところ、どうしていいかわからず固まってしまっていたから。
いつからだったのだろうか。
それを知ったところで意味はない。
過去よりも未来に目を向けるべきなのだから。
半径2メートル、それはいつしか変わっていっていた。
距離が変わったわけではない、変わったのは内容だった。
出会い、育み、深め、育て、繋いでいく。
この世界は半径6400キロくらいだと聞いたことがある。
その中からどれだけの確率をくぐり抜けてこの距離までたどり着いたのだろう。
よく天文学的確率なんて言葉があるが、本当にそうなんだろうなと思う。
何もかもの条件が合致しなければ、何もかもがかみ合わなければこうはならなかっただろう。
そんな奇跡を経て今があるのだ。
供養 きゅーちゃん @tktk1810
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