第63話 隠されたものたち 5

教皇は白衣の裾を揺らし、祭壇の前に立った。

その瞳は深く澄み、静かに語り始める。


「7匹の大竜は強き力を持つがゆえに、人の姿をとり、世に紛れて暮らすことがある」


「……人の姿で?」フィオナが眉をひそめる。

「そんなの、今まで一度も聞いたことないけど」


「知らぬ方が自然だ。竜は己の存在を隠すことに長けている」


ルゥが小さく首をかしげる。

「じゃあ……街の中にも竜が混じってるかもしれないってこと?」


「その可能性はある」教皇は頷いた。

「竜の魔力は世界の魔力量と共鳴している。世界の魔力が一定を超えれば、人の姿を保てなくなる」


レオンが短く息を吐く。

「つまり、隠しきれなくなる……」


「そうだ」教皇は静かに続ける。

「その時、我らは竜の姿に戻り、身を潜めるしかない」


フィオナは肩をすくめ、皮肉っぽく笑った。

「せっかく人の姿で暮らしてても、バレる時はバレるってわけか。……不便だな」


「不便ではあるが、それもまた理だ」教皇は揺るがぬ声で返す。

「人と馴れ合い、共に暮らす者もいれば、山奥に身を潜める者もいる。竜の在り方はそれぞれだ」


ルゥは小さく呟いた。

「……人と一緒に暮らす竜もいるんだ……」


その言葉に、教皇の視線がルゥへと向けられる。

「いるとも。そして今、この時代において――その選択が、世界の均衡を左右することになる」


祠の奥に漂う空気が、さらに重く、そして神聖なものへと変わっていった。


白衣の袖の奥で、指先がわずかに動く。


「……お前の中には、二つの魂が混ざっている」


ルゥの肩がびくりと揺れる。

フィオナが思わず声を上げた。

「は? 二つの魂? どういうことよ!」


レオンが静かに目を閉じ、低く息を吐いた。

「……隠していたが、事実だ。ルゥの中には、少女の魂が宿っている」


ルゥの肩がびくりと揺れる。

フィオナが思わず声を上げた。

「は? 二つの魂? どういうことよ!」


ロアンが目を丸くし、口を挟む。

「え、まだ言ってなかったのか?」


レオンが低く息を吐き、視線を落とした。

「……隠していたが、事実だ。ルゥの中には、少女の魂が宿っている」


「少女……?」フィオナの目が大きく見開かれる。

「誰の魂なのよ」


レオンは言葉を詰まらせ、しばし沈黙する。

「それは……」


ルゥが小さく笑みを浮かべる。

「いいよ、レオン。もう隠さなくて」


レオンはしばし沈黙したのち、重く口を開いた。

「帝国の……亡き第一王子の娘だ」


祠の空気が一瞬にして張り詰める。

フィオナは息を呑み、思わず後ずさった。

「……第一王子の……娘……? そんな……」


レオンはそれ以上は言うなとフィオナをじっと見ながら続けた。


「……これから話すのは、俺とルゥの記憶を繋ぎ合わせたもの」


祠の奥に漂う神聖な空気が、今度は静かな緊張へと変わっていく。

そして物語は――ルゥの過去へと移っていった。

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