第4話 港町と謀略の糸 3

 港町の夕暮れ、桟橋沿いの屋台からは香ばしいシルロコの串焼きや、甘く煮込んだ潮草スープの匂いが漂ってくる。

 フィオナは両手いっぱいに屋台の食べ物を抱え、尻尾をぶんぶん振っていた。


「初任務、無事完了! いやー、あたし頑張ったよね!」

 シルロコの串を片手に、フィオナは得意げに胸を張る。

「……まあ、足手まといにはならなかったな」

 レオンは淡々と答えるが、その口調はいつもよりわずかに柔らかい。


「ほらルゥも食べなよ、クルグの唐揚げ!」

 差し出された串を、ルゥはちょこんと咥えてもぐもぐ。

「うん、悪くないね」

「でしょ? 港町の味って感じ!」


 屋台の灯りが揺れ、潮風が三人の間を抜けていく。

 ふと、フィオナが串を置き、海の方を見た。

「……あたしさ、家業が盗賊だったんだ

誕生日を忘れられて…居場所がなくなったみたいで飛び出したんだけど…」

 唐突な告白に、ルゥが瞬きをする。

「物心ついた頃から、盗みの手伝いばっかり。

外の世界なんて、獲物を狙う時にしか見られなかった

殺しはなかったからまだマシだけどね」

 言葉を切り、少し笑って肩をすくめる。

「だから、こうやって“ちゃんとした仕事”で遠くまで来られるのが、なんか嬉しくてさ」


 レオンは短く息を吐き、

「……まぁ、こっちも似たようなもんだ」

 とだけ言い、視線を海に向けた。

 そのまま何かを話そうと口を開く——が、向かいの席ではフィオナが頬を赤くして突っ伏していた。

 潮草酒の瓶が、空になって転がっている。


「……やれやれ」

 レオンは小さく息を吐き、ルゥと目を合わせる。

「運ぶのは荷物だけじゃないんだな」

 ルゥがくすっと笑い、二人でフィオナを支えながら歩き出す。

 港の通りを抜ける間、レオンは人混みに紛れ、自然な足取りで目立たぬように進んだ。


---


 夜の港町は、昼間の喧騒が落ち着き、屋台の灯りが波間に揺れている。

「……今日はここで泊まる」

 レオンの言葉に、ルゥが笑い、フィオナは半分眠ったまま「港町の夜っていいね」と呟く。


 港の外れの宿屋は、船乗りや商人がよく使う場所だ。

 木の看板には潮草の模様が彫られ、窓からは暖かな灯りが漏れている。

 宿の主人が「部屋は二つ空いてるよ」と言い、レオンは短く頷いた。


 こうして三人は、港町の夜を過ごすことになった。


---


 翌朝、港はすでに活気づいていた。

 レオンは荷物を整え、フィオナはまだ少し重そうな頭を押さえながら階段を降りてくる。

「酒はほどほどにしろ」

「わかってるって……でも、楽しかったし」

 ルゥが肩の上でくすっと笑う。

「港町の夜は、あんたに似合ってたよ」


 宿の主人に礼を言い、三人は川沿いの道を境界街へ向けて歩き出した。

 レオンは配達人らしい足取りで、港町を後にした。

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