連絡不精とメンヘラ薬剤師
ところてん@
第1話連絡不精とメンヘラ薬剤師
窓ガラス越しに、行き交う人影が揺れる。Uber Eatsの配達員が薬局のテレビをのぞき込もうと、ガラス際までぐっと近づいてくる。そんな光景が、毎日の風景になっていた。
薬局の薬剤師に出会いはほとんどない。女性に囲まれた穏やかな日常だけれど、恋のときめきなんてものはない。中高時代から女子ばかりの環境で育ち、恋愛や結婚に意気込むわりに、なぜ自ら女性だけの場所を選んできたのか、自分でもよくわからない。数字だけが先に進み、気持ちだけ取り残され、気づけば三十歳。
そんな私にも転機が訪れた。かわいい三つ下の後輩のつてで、男性を紹介してもらったのだ。くりっとした目に濃い眉、スポーツを思わせる日焼け肌——爽やかで、どこか可愛らしい。初対面のときは「こういう感じね」と受け流したのに、友人の話を楽しそうに聞く横顔と、誠実な受け答えを目にするほど、気づけば目が離せなくなっていた。
薬局で鍛えられたのか、もともとの癖なのか。私は初対面の表情や目つきで、その人がだいたい見えてしまう。調剤待ちの椅子で目つきに違和感を覚えた人は、のちに万引きで捕まった。ドラッグストアで挨拶してきた人も、直感的に奇妙さを覚え、普通じゃないと感じ、どこか危うさもあって、あえて返さなかった。その人も結局、盗みがばれて辞めていった。
大体の人は初見で判断できてしまう。そんな私が、何ひとつ気になるところを見つけられなかった男性——それが彼だった。
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