ファンタジー大喜利ショートショート

亞酩仙介

チートスキル:初回SSR確定ガチャ編

 僕の人生は、トラックに跳ねられた瞬間に唐突に幕を閉じた。

 ……いや、異世界転生ものの主人公としては、むしろここからが本番なのだろう。


 目を覚ますと、白く輝く空間。お約束の女神さまが立っていた。

「哀れなる魂よ。あなたにひとつ、好きなスキルを授けましょう」

 そう言って差し出されたのは分厚いスキルカタログ。六法全書かよ。


 僕はページをめくりながら、よくあるチートの羅列に目を走らせた。

「剣術極めし者」……テンプレ。

「魔王殺し」……ラスボス直行すぎる。

「聖なる加護」……守りに入るのもつまらない。


 そして、目に入ったその文字。

「ガチャ」

 ……きらめいていた。

 ああ、なんて素敵な響きだろう。ソシャゲのガチャを引くあのドキドキ感、最高レアが出るかどうかの、息の詰まる緊張感。現世でも散財して味わった、あの麻薬のような高揚感。これこそ異世界にふさわしいロマンじゃないか!


「女神さま、この“ガチャ”にします!」

 女神は一瞬、言葉に詰まった。

「……よろしいのですか? 本当に?」

「もちろんです!」

 少し引っかかるものを感じたが、僕は勢いで頷いた。


 ――かくして転生。


転生後の世界は素晴らしいものだった。中世ヨーロッパ風の建物に美男美女、様々な種族に様々な魔法、心躍る伝説、風変わりだけど美味しい食べ物etc……。

 ただひとつ、困ったことがあった。

 女神さまから貰ったこのスキルが、何度試しても発動しなかったのだ。

「ガチャよ、来い!」とか「回れ!」とか叫んでみても何も起きない。

 結局、村で畑仕事を手伝うだけの日々。僕のチートは、どうやらハズレだったのかもしれない。


 そんな折、森での探索中に魔物と遭遇した。

 牙をむいて襲いかかってくる、どう見ても新人冒険者が勝てる相手じゃないモンスター。

 そしてその瞬間――。


 わかった。

 魂が訴えてくるのだ。

 今こそスキルを使え、と。

 脳裏に響く感覚は、体の奥底から突き上げてくる衝動のようでもあり、確信のようでもあった。


 僕は叫んだ。

「いまだ! スキル発動!」


 その瞬間、空気を震わせる重低音と共に、目の前に現れたのは――。


 巨大なガチャマシン。

 金ピカの枠、回転するリール、眩しいまでのネオン。

 そして上部に掲げられた文字は「PANDORA」。


「……うん? パンドラ? いやいやいや、嫌な名前だなオイ!」


 だが同時に胸の奥に湧き上がるのは、万能感に近い感情だった。

 ついに来たのだ。女神から与えられたチートスキル。僕を無敵に導くはずの力。

 この瞬間を待っていた。


「ねぇねぇ!」と、横から声がした。

 さっき拾った(そしてお約束通り仲間になった)精霊のシルフだ。

 小柄でふわふわ、いかにもマスコット枠。だが、笑顔でとんでもないことを言った。

「そのガチャね〜、ハズレ引くと大変なことになるから気をつけてね!」

「はああああ!? 聞いてないんだけど!?」


 シルフはひらひらとペラ紙を差し出す。そこにはご丁寧に排出率が印字されていた。


 SSR【希望】 :0.05%

 SR 【平和】 :1%

 R 【災厄】 :49.95%

 N 【地獄】 :49%


「こんなの引けるかぁぁぁ!」

「でももう、スキル発動しちゃってるよ?」

「うわあああああ! 神様! どうか“希望”をお願いしますうううう!」


「大丈夫だよ!」とシルフがにこっと笑う。

「初回はSSR確定だから!」


 次の瞬間ドラムロールが鳴り響きリールが回転する。荘厳なBGMと共に空から流星が降り注ぎ、虹色のゲートが開いた!

 豪華絢爛、SSR確定演出! 七色に輝く玉が、まばゆい光とともに姿を現す!


「やった……やったぞ! 希望だ! これで勝った!」


 しかし。

 ガチャは止まらなかった。再びリールが回転し、カラカラと別のカプセルが落ちてくる。


「……お、おい? どういうことだよ!?」

「だってこれ、10連だし♪」



「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」






 <完>

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