でも君が幸せなら良いよ

なし

第1話

 今日も君は一人、布団の上で丸くなっている。

 体がとっても辛そうだ。

 顔をギュッと顰めている。

 いつも僕に向けてくれる、あのキラキラした優しい笑顔は見る影もない。

 辛そうな君の横へ、僕は静かに移動した。

「あれ、一緒にいてくれるの?」

「うん」

 僕が隣に来たことに気がついた君は、取り繕うように笑う。そんな顔、見ていられない。見たくない。

 でも、僕には何も出来ない。

 返事は君よりもずっと小さくなってしまった。

「きっと大丈夫だよ」

「励ましてくれるの?」

「うん」

 僕の無意味な声ばかりが、暗い部屋に残る。

 昨日も体調が悪そうだったけど、今日は特にダメみたい。

 僕の体に、君の冷めきった指が触れる。

 抵抗せず、されるままに撫でられる。

「優しいね。リオくんのおかげで、頑張れるよ」

「……うん」

 辛くても頑張る、誰よりも優しい女の子。

 言われたことは嬉しいけど、どこかムズムズして恥ずかしい。だから、君の手に頬を擦り寄せた。僕の顔の熱が移せれば良いのに、と思いながら。

 そのまま昨日と同じように、少し窮屈な布団の中で、僕たちは夜を過ごした。

 良くないことだけど、僕はずっとこんな日が続くんだって思ってた。


 何回か、一緒に月を見送った頃。

 君はすっかり元気になっていた。

 日中の暑い中、君は着慣れていない服で、見慣れない顔になって外へ行く。そして、知らない匂いを纏って帰ってくる。

「やっぱり好きだな」

「絶対僕の方が好きだよ」

「えー、嫉妬?」

 弾むような声で、真っ赤な顔で、僕に色んな話をするようになった。僕の頭を撫でる手は、知らない間にとっても暖かい。

 

「お邪魔します……」

 知らない人が、僕を見下ろす。

 負けたくないから、僕は一番高い棚の上に登った。そして、言ってやったんだ。

「帰って」

 だけど、僕の声は君たちよりもずっと小さい。

「いらっしゃい、リオくんも挨拶できて偉いね」

「あ、この前言ってた子か。初めまして、リオくん。はなちゃんと付き合ってるりくです。よろしくな」

「知らないよ。早く帰って」

「んふふ、自己紹介してくれてるのかな。今年で三歳になるの」

 僕の耳はきっと横にピンッと伸びている。

 尻尾がゆらゆらと落ち着かない。

 僕の事を話しているのに、君が遠くにいる。ずっと楽しそうな顔で笑っている。

「いつか触らせてもらえないかな」

「陸くんに慣れてきたら、触らせてくれるかもね」

「絶対嫌だ」


 君たちのことを映す板に、不満そうな顔をした猫が一匹。二人を睨みつける僕が一緒にいた。

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