「ゼロ年代ライトノベルのリバイバル」
村上春樹の『1Q84』を思わせる二者間構成であった。川奈天吾と青豆雅美に相当するキャラが、武本智久と水無月葵である。AI少女の玲奈はふかえりに対応する。
しかし、この作品は単なるオマージュではない。序盤に提出されるチューリング・テストの問題は、物語全体のテーマとなっており、オチへと見事な連なりを見せている。
それぞれの視点から描かれる情景描写は見事で、キャラクターにも魅力があった。最後のオチは意表をつかれるもので、振り返ると本文の全体に伏線があったことが分かる。注意深い読者は伏線を楽しみながら読むことができるだろう。
またライトノベル的な日常、ジュブナイルな男女の恋愛も描かれており、この点は一見瑣末なことに見えつつも、実は物語の構造に大きな影響を与えていることがわかる。
つまり、この作品は1Q84的な装いを持ちつつも、作者自身のテーマが込められ、それをライトノベル的な色彩で十分に魅力あるものに仕立てている。村上春樹が『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で提起した問題を、ゼロ年台のライトノベルはセカイ系という形で継承したわけであるが、この作品はそのゼロ年代に回帰しつつも、二人がそれぞれ「国家」や「株式会社」という組織に所属することで、セカイなき社会を前面に出すことに成功している。
男女の二者間構造をセカイに繋げるのではなく、社会的なるものに繋げていく点で、この作品はゼロ年代的なライトノベルの流れを一歩前に進めているものといえるだろう。
キャラクターとして秀逸なのは二出川と宮本である。エピローグにて、それぞれの陣営に明るい空気を吹き込んでくれる。新キャラの女の子も快活で魅力に溢れている。続編に期待が集まる。