彼女の隣にはお坊さんがいる
吉田 九郎
第1話 彼女の隣には
「昨日はゴメン! 大きな声で怒鳴って怖かったよね」
「いいよ…昨日のことは、遅刻した私が悪いから……」
少し困った表情をした彼女の横にはお坊さんがいた。まただ。また現れた。彼女が感情的になると隣に突然、お坊さんが現れる。
彼女の耳元でお坊さんが説法を始めた。
「口下手な人は別に必ずしも言葉で思いを伝える必要はないんですね。言葉でむつかしいなら態度や姿勢でしめせば伝わるはずです……」
説法を聞いて気持ちを落ち着かせているのだろうか。
彼女は、いつもおとなしい。大学でも、暇があれば本を読んでいて、ほとんど誰とも話さない。今、付き合っている僕とも。デートも映画鑑賞か、街中をぶらぶらと散歩するくらいしかやったことがない。
正直、彼女が何を考えているのか分からない。
今もそうだ、僕と一緒に散歩しているのに彼女は目も合わせない。少し距離を取って歩いている。僕はこんなに目の前にいるのに……。広い公園を人形と歩いているみたいだ……。
彼女は突然、立ち止まって振り返った。そして、僕に抱きついた。
「本当にゴメン……私、口下手だから上手く伝えられないけど……でも頑張るよ」
彼女は泣いていた。彼女の体温が上がるのが伝わってくる。
よかった、冷たい人形じゃなかった。
彼女の耳元で囁いていたお坊さんはいなくなった。
彼女の隣にはお坊さんがいる 吉田 九郎 @bloodbone
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