灼熱の闘技場

 翌日、軽い食事を済ませてからカラードの案内でエルクリッド達はブレイズ山脈の山道を進み、やがて拓けたその場所へ辿り着く。


 そこは思わず見惚れ声を漏らしてしまう程に幻想的でありながらも雄々しい舞台、燃える炎が揺らめく赤い結晶に囲まれた中に作られた灼熱の闘技場であった。


「ここはオイラの一族……傘召桜さんしょうおの先祖が作った修練場の一つさ。周りの赤いのは火炎石っていう火属性を秘めた鉱石の塊で触る分には問題ねぇが、強すぎる衝撃加えると表面から炎が放たれるっていう特性がある」


 人工的に作られたその場所の石階段を下りながらカラードが説明をし、エルクリッド達もその舞台の特徴から周囲のそれが戦いに利用するものと理解する。

 火炎石に衝撃を加えて二方面からの攻撃や、そこにぶつけての追加攻撃等が可能というのは推測がつく。こうした環境を利用した戦いを学ぶ場を自ら作り、そこで鍛え上げる事で武闘派としての実力を傘召桜さんしょうおの一族は高めているのだと。


 舞台のすぐ前につくと湧き上がるような熱気に防熱をしてても汗が流れ、タラゼドが熱を遮る魔法をかけようとするも顔の前にカラードが手を開いて制止させた。


「一応ここは神聖な試練の場だぜ、この環境下で戦えるかってーのもオイラの戦いでは見定めさせてもらうから手出しは最低限な」


「……それもそうですね、では観戦するわたくし達だけに使わせてもらいます」


 あぁとカラードが答えるのに合わせてタラゼドが戦う三人を除いて魔法をかけ、すーっと涼やかになるのをエルクリッドとノヴァは感じるものの申し訳なさも思い、それを察したシェダは気にすんなと一声かけてから舞台へ上がる。


「熱気がすげぇってのは確かだけど、意外とこの上はそこまでじゃないな……火炎石が熱吸ってんのか」


 暖気は上へと登るもの、一段高くなっている舞台の上はよりいっそうと思えたが、シェダはそれが周囲の火炎石の影響と見抜きカラードもその通りだと答えつつ器用に舞台へ跳び乗る。


「ま、だからといって涼しくなる事もねぇ。ここは魔力の源流、火属性のそれに近いとこでもあるから水魔法はほぼ使えねぇと思ってくれ」


 火に相反する水の力を消し去る程の属性の強さは、言い換えると火属性をさらに活発にすると言えた。

 つまりこの場は火属性アセスとそれを支援するカードを扱うカラードにとっては圧倒的有利であり、彼の全力を発揮できる場所そのもの。


 十二星召屈指の攻撃力を持つ彼を二人で挑むシェダは早速と一歩すすもうとすると、すっと先にリオが進みカラードと向かい合う。


「リオさん」


「以前の詫びも兼ねて先にやらせてください」


 リオの言う以前とはエルクリッドを含む三人で縛りをしたカラードと相対した時の事だ。その際リオのアセス・ローズは記憶を取り戻しかけた影響もあって戦闘続行ができなくなり、決着としては不完全燃焼なものとなった。


 気にすんなと言いたげに頭をかきながら視線を送るカラードにリオはまっすぐな目で応え、凛と佇む姿勢にシェダは一度舞台を下りて引く。


「わかりました、でも、ちょっとは俺の分残してくださいよ?」


「それは保証しかねます、私も今日は、一人のリスナーとして戦いたい気分ですので……!」


 エルクリッドの変化に触発されたからか、あるいはアセスの影響か、いつになくリオが戦いに挑む姿勢が楽しげであり、恐れる事のない堂々たるものなのをシェダに伝わりエルクリッド達もまた同じものを感じ見守る姿勢へ。


 そんなリオの闘志高まる姿にカラードも不敵に笑みを浮かべながら右の片肌を脱いで炎のような入墨を刻む腕を晒し、滾る魔力が熱風となりリオに向かって放たれる。

 傘召桜さんしょうおの長にして十二星召が一人の烈火のリスナー、その闘争心に火がついた事を感じ取りリオはカードを二枚引き抜き、カラードもまたカードを抜き戦いの幕は上がった。


「デュオサモン! 行きますよ、ラン! リンドウ!」


「紅蓮を進み圧倒してきな、シェル!」


 犬剣士クー・シーのラン、そして猫剣士ケット・シーのリンドウを同時召喚するリオに対し、カラードが召喚するのはトゲの生えた甲羅を持つ火亀のシェル。

 ランとリンドウがそれぞれの剣を引き抜くのに合わせシェルはゆっくり一歩踏み出し、その重厚なる巨体は動く大岩そのものを思わせる。


(火亀……溶岩にも耐える強固な甲羅を持つ魔物ですか。そしてあの大きさに纏う覇気、百戦錬磨のアセスですね)


 まずは火亀という魔物についての情報をリオは思い出しながらどう戦うかを思案する。シェルが経験豊富なアセスというのは雰囲気から察する事ができ、それはランとリンドウも感じ取り言葉を交わさずともゆっくり左右に分かれ二方向から攻める位置へとつく。


 しばしお互い動きを見せずにいると、漆塗りのカード入れに手をかけたカラードが三枚のカードを一気に引き抜き、リオも身構え静は動へと転じる。


「スペル発動バーンフォース! さらに、スペル発動フレイムウォール!」


 強化スペルを使ってから展開される炎の壁が吹き上がってシェルを隠し、それが攻撃への布石と察したランとリンドウはその場から後ろへと跳び、炎の壁を突き破り飛んでくる火炎弾を躱す。

 まずは小手調べとでも言うべきシェルが口から放つ火炎弾による攻撃はランとリンドウがいた場所を熱で溶かし、その凄まじい熱量と威力を見せつける。だがそれに怯む事はなく、リオへ一瞬目配りしたランとリンドウはカードを抜く彼女に合わせて疾走る。


「ツール使用ファイアシールド!」


 ちょうどランとリンドウがフレイムウォールに隠れる形になった瞬間にリオがカードを切り、カラードはどちらにファイアシールドが握られたのかわからずほうと感心の声をあげた。

 視界を塞ぐ事を逆手に取る戦略は出だしとしては悪くはなく、シェルの火炎弾を防ぐ為のファイアシールドという選択も適切だ。刹那、フレイムウォールを切り裂き突っ込んでくるランがシェルの左側から見え、さらに右の方面の真横からリンドウが位置取りし二方向から一気に駆け抜ける。


「悪くねぇ攻めだ! ツール使用、灰燼の鎧!」


 予め抜いていた三枚の最後の一枚をカラードが使い、シェルの全身に橙色の線の走る灰色の鎧が纏われその姿を変えた。刹那にランが大剣で貫きに行くが鎧に弾かれてしまい、リンドウもまたファイアシールドを前に構えながら迫り振り向くシェルの火炎弾を防ぎこそするが、勢いに押され後退させられる。


 その瞬間にカラードがカードを引き抜き、烈火の召喚札師たる所以の技を繰り出す。


「スペル発動フレアブラスト! いくぜシェル!」


 炎のように燃え上がる強さを持つ声と共に発動したスペルがシェルの身体に宿り、ずんっと足をしっかり踏み締めてからランに狙いをつけシェルの口からズドンと大きな音と共に巨大な火炎弾が放たれ、その威力を示すようにシェルも後ろへと下がる程だ。


 姿勢を直しきれてない所への強大な火炎弾を前にランは大剣を突き立て盾にする構えを取り、リオもすぐにプロテクションのカードを切って青い膜がランを包み守り抜く。

 だが火炎弾によってランの周囲の舞台が焼けて溶け、残火が燃えているのにリオは戦慄し、だが、怯む事も恐れる事もなく、強敵を倒す為に闘志をさらに燃やす。


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