託され紡がれていく

 スパーダとデューク、二人の騎士が再び駆け出し強く踏み込み振り抜かれた大剣同士がぶつかり合い、その衝撃が大気を震わせ森を揺らす。


 ぎちぎちと刃同士が擦れ合い火花を上げても両者共に退く事なく両手で剣を持ちさらに力を込め押し切りにかかり、エルクリッドとルイもまたその支援に入る。


「スペル発動、ウォリアーハート!」


 発動される同名スペルは戦士の力を最大限に高めるもの、その力を受けて尚互角に押し合う騎士二人はいつ動くのか、どちらが先に仕掛けるのかの読み合いをしながら鍔迫り合いを続けていた。


(先に動いた方が隙を晒す、でもその瞬間が勝負所……!)


(共に霊体を切る剣ではない、なれば次なる手は……!)


 よく知る相手だからこそ最適解も自ずと見え、同じような存在だからこそ最善策も見えてくる。互いに神経を研ぎ澄ませながら鍔迫り合い、やがてウォリアーハートの効果が切れたのに合わせ両者共に後ろへ跳び退き、突きの体勢を取って一気に駆けた。


「スペル発動スペクターブレイク! これで決めます、デューク!」


 先にカードを切ったのはルイ。幽霊騎士スペクターナイトであるスパーダやデュークは媒体としている鎧を喪失させるか、霊体を捉える術かで撃破可能となる。

 ルイが選んだのは後者の方法で、霊体を討つ力を宿したデュークの大剣がスパーダの剣とかすめ合いながら胸を刺し貫く。


 力なくもたれかかるスパーダを受け止めた時、デュークはエルクリッドが引き抜きスペクターブレイクを手にする姿を目の当たりにし、刹那に背後から衝撃を感じ取り己の身体を貫くスパーダの剣と、鎧を捨て幽体で活動する彼女を感じフッと笑う。


「離脱する術を身につけていたか……なるほど、確実に次の世代へ移り変わっているようだな」


「デューク殿……あなたの教えは必ず伝えていきます」


「心に剣を、力に希を、そして技に光あれ……見事だ、スパーダ」


 騎士二人が言葉を交わしたと同時にエルクリッドがスペルを発動し、スパーダが剣を振り上げデュークを両断し勝負を決めた。


 その瞬間にエルクリッドもまた確かな手応えと心に思い、ルイへ一礼し次なる目標へと心を定め戦い終える。



ーー


「ありがとうございましたルイさん、えと、傷は大丈夫、ですか?」


「あの程度の傷はかつての旅に比べれば大した事はありません、タラゼド殿の魔法も施されましたしね」


 戦いを終えてそれぞれの手当てをタラゼドを済ませるとすぐに別れがやってくる。ルイとの組み手を通して確かなものを感じたエルクリッドは改めて言葉に出そうとするも、すっと唇を人差し指でルイに抑えられ、改めて言う必要はありませんと言われ続けて伝えられる言葉に耳を傾けた。


「あなたはもう十分に強くなりました、もう私やクロスが教える事もないほどに……あとは身につけたものを、共に戦うアセスを信じ、常に冷静に判断しカードを適切に選ぶこと、どんな困難を前にしても諦めないこと……あなたにはそれを実行するだけの心と力と技は揃っています」

 

 優しく伝えられるルイの言葉には何処か寂しさも感じられたが、それ以上に自信に繋がるものを贈られたと思いエルクリッドは強く頷く。


「すっきりした、っていうとあれなんですけど……もっともっとって思わなくなったというか、大丈夫なんだって思えました。ほんとにありがとうございます」


「礼には及びませんよ、それに、焦りを感じるのも無理はありません。それ程にバエルは強い……そしてその先にいる者達も、また」


 絶対的な実力を持つリスナー、バエルのそれが確固たる事実なのに変わりはない。

 またルイは名前こそ出さなかったがその先にいる者達として触れた存在の事もエルクリッドはなんとなく察し、手を強く握りながらも笑みを浮かべまっすぐにルイを見て返す。


「大丈夫です! あたしは一人じゃない、皆がいますから!」


 面食らったようにルイは目を大きくするものの、すぐにそうですねとクスクス笑いながら返し見守っていたタラゼドも魔法の準備に入り、エルクリッドも一歩下がる。

 

「それじゃあルイさん、また! ワンドにもよろしくです!」


「えぇ、伝えておきますよ。タラゼド殿も、エルクの事お願いしますね」


「承知しています。では、またいずれ」


 魔法陣がタラゼドの足下から展開されてエルクリッドと共に陣が上って包み込み、そして再び陣が下がると共に二人は姿を消し何処かへと転移しその場を去っていった。


 しばしルイはその場に佇んでいると森の方に人影が見え、それがクロスとわかると彼の方へと駆け寄って顔を合わせ、ニコッと笑うと平手打ちをかます。


「またリリル様の所に行ってたわね?」


「行ったってもレビアに会う時に偶然……」


「言ったわよね? 会う時は一言言うようにって……まぁ偶然なら仕方ないですけど……」


 こめかみの血管を浮かせ満面の笑みで話すルイにクロスはしどろもどろになり返せなくなると、ふっと笑ってからルイは背中を向けて話題を変える。


「ついさっき、エルクとタラゼドさんいたの。あなたに言われた通りにしごいて、あなたの言った通りあの子は乗り越えてった」


 そうか、とクロスは答えつつルイの隣に来て空を見上げ、彼女が寄り添うと肩に手をやりながら更に寄せる。


 傷ついたエルクリッドが庭先に倒れていたのを息子ワンドが見つけ、それを手当し彼女が家族として加わり、やがて師事を希い手ほどきをした日々は鮮明に覚えているもの。

 それだけに彼女が抱えている秘密の数々や、それを知らなかった事や彼女個人の思いとで苦悩したことも。


「エルク、強くなってたわ。他人に優しくして女たらしになってたどっかの誰かさんより優秀なのも確かね」


「それは別に関係ない……」


「まぁ、その優しさに惹かれた誰かさんの一人が私なのも確かだけど、ね」


 ふふっとからかうような笑みを見せるルイにクロスは苦笑で返しながら、在りし日々を思い返す。そして、今を生きて明日を目指す若者達へ紡がれ、いずれは託される側から託す側へなることも思いつつ空を見上げ、まだ見ぬ明日への希望を共に願った。



NEXT……

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