穿く雷

 凍りつき砕かれる大精霊ノヴェルカの大樹目掛けて解放されたヒレイが炎を吐きつけんと構えたが、何かを察して攻撃を中断し一気に飛び上がり大地を割り剣山のように伸びるツタを避ける。

 その間にヤサカがリオに肩を貸して後退し、凍りつき折れた大樹部分から氷を砕き新たな幹が生え再び花が咲き誇りノヴェルカが姿を見せ、地に落ちた方はすぐに朽ちて砂のように崩れ去った。


「氷結剣……女神の巫女の技か。巫女以外でその技を使う者がいるとは、人間というのも捨てたものではないなセレファルシア?」


「大精霊らにはないものが人には与えられた、その一例ってやつだ」


 確かに、と返しながらノヴェルカは立て直す為に一度引き返すヒレイらに目を向けつつ、その姿に在りし日の記憶を重ね見る。幾人も挑んできた者達の中にも同じような者がいた、リスナーの祖たる者もまた同じようにと。


 今を生き大精霊ノヴェルカへ挑むエルクリッド達は戻ってきて早々に倒れ込むヤサカをシェダがカードに戻し、リオも霊剣アビスをカードへ戻しながらタラゼドの治療を受ける。


「援護感謝しますタラゼド殿」


「危ないところでしたが何とか間に合って良かった、といったところです。やはり油断なりませんね」


 本来なら幻惑効果を持つ花粉の影響で正常な判断が失われていたが、タラゼドの魔法がそれを防ぎ大技へと繋がった。無論、タラゼドも痺れが完全に抜けたわけではない事もあり感覚の麻痺はあり、また、リオも少し気が抜けたのもありどっと汗が流れ息を切らす。


「魔力はもうほとんどありませんね。あとは、お願いします」


「でかいのぶつけたってだけで十分っすよ。あとは俺らに任せてください」


 リオに答えたシェダが一歩前へと進みながらカードを引き抜き、エルクリッドもまたヒレイと目を合わせ前へと進ませる。

 すぐに再生されたとはいえリオの一撃による傷はセレファルシアにとっては大きな消耗に繋がり、ノヴェルカの維持もしづらくなったのは間違いない。とはいえ、まだ一撃を与えたに過ぎないという見方もできるし、同じ手が通用せずよりいっそう警戒ないし猛攻をかけてくるというのも確かだ。


 今回の戦いは参加証を持つ者、エルクリッド、シェダ、リオの三人全員が倒されたら敗北というものであり単純な手数だけでなく、いかにして倒されないようにするかは重要であるが、同時に相討ち覚悟でなければ強烈な一撃を与えられないのもまた確かな相手と認識し直し、シェダは次のアセスを呼び出す。


「聖槍持つ英雄よ、黒き迅雷を穿き栄光を掴め! 行くぜ、迅雷槍士じんらいそうしディオン!」


 黒き雷を従え白銀の軽鎧を纏いしディオンが召喚され、煌めく聖槍オーディンを手に真っ直ぐ大精霊ノヴェルカを捉え大物だなと漏らす。


「ディオン、余裕かましてるとやられるぞ」


「武者震いするくらいには緊張はしている。だが確かに、そうだな……久方ぶりに高揚してるのも間違いない」


 武者震いする手に力を入れ直すディオンが聖槍を構え臨戦態勢となり、ヒレイも翼を広げ同様に構えた。

 大精霊とはエタリラにおける神にも等しき存在、それに弓を引くような事は畏れ多い。同時に、正式な場として挑める事は戦士としての誉れとディオンの胸の高鳴りをシェダは感じ取り、ふっと笑いカードを抜く。


「まずはこのディオンが切り込む、それからヒレイが続きタラゼド殿達は全体を見ながら支援を頼む」


「相手の方が手数は多い、一人で突破できるとでも?」


「……似たような状況は幾度も経験してきた。俺一人で勝てるとは思ってはいない、だからこそ、後に続いてくれる仲間を信じて前へ行く……それだけだ」


 小さく唸りながら問うヒレイにディオンがゆっくり歩を進めながら答え、やがて足を早め走り出す。刹那に数多のツタが伸びて行く手を遮り、同時に呼び出された靭やかな獣が四方から迫る。

 瞬間、ディオンは真っ直ぐ進み聖槍の一閃でツタを切り裂き道を開くと、飛びかかり襲い来る魔物達をまず一匹を聖槍を振り上げ頭をかち割って撃破し、背後から来るものには振り返る事なく槍を突き出し胸を貫く。


 そこから挟み込まれるように獣が二頭迫るが、聖槍を素早く引き抜くディオンが地面に槍を突き立て黒き雷を呼び弾けると共に衝撃波が二頭を吹き飛ばす。

 同時にヒレイが飛んで空からノヴェルカへと向かい、牙を持つ花とツタとが一斉に伸びて黄色の液体を吹き付けにかかる。それを白い炎を吐いて空中で蒸発させ水蒸気を起こし姿を隠し、エルクリッドがまず動いた。


「ツール使用ミスリックアーマー! おまけでスペル発動、フレアフォース!」


 外骨格を纏ってない部位へ装着される銀の鎧が炎を描きながらヒレイに力を与え、フレアフォースの赤い光がさらにそれを後押しする。水蒸気を貫き伸びてくるツタを腕を振るい爪で引き裂くヒレイはそのままさらに引き、追撃とばかりに伸びてくる別のツタを口からの炎で焼き払う、が、上空より怪鳥の群れが迫りタラゼドが咄嗟に魔法を唱える。


「生あるものは死の訪れより逃れる事はなく、時として不意に齎され逃げる術はなし……!」


 怪鳥の目から生気が消えて墜落していき、即死魔法という禁術の使用にはエルクリッドが思わずタラゼドの方に振り向く。だがすぐに前に向き直り、援護に感謝しつつヒレイもノヴェルカに向かって飛ぶ。


(禁術を咄嗟に使えるのもすごいけど、使わなきゃ危ないって事だよね。タラゼドさんの魔力だって無限じゃないし……流れをこっちに持ってかないと!)


 タラゼドの魔力がそう簡単に尽きるものではないのはエルクリッドもよく知っているものの、戦いの流れは仕切り直しを挟んだ事で五分に戻りせめぎ合いへとなっている。セレファルシアの魔力が尽きるよりも前にタラゼドの魔力が尽きては意味がなく、戦局に響いてしまう。


 セレファルシアもノヴェルカもタラゼドを意識し隙あらば無力化を狙ってくるのを踏まえると、よりいっそう連携の機会を見定めねばならない。目配りするエルクリッドにノヴァが頷いて応えカード入れに手をかけ、同時に先陣を切るディオンはさらに進みノヴェルカへと迫る。


「神具を手にする古の英傑か……そのような相手も、久しい、な」


 ノヴェルカが淡々とそう言って指を鳴らすと共にディオンの足下が崩れ落ち、鋭い剣山のような茨が待ち構える落とし穴へ招く。瞬間、ディオンは動じる事なく岩の破片から破片へと跳び移って地上へ戻り、待ち構えるように迫ったツタも聖槍を振り抜き切り払う。

 だが切られたツタの破片が膨張し弾け飛んで黄緑の液体を撒き散らし、シェダがカードを切ろうとするのを察したディオンは咄嗟に聖槍に力を込め黒い雷を纏い身体に液体が触れるのを防ぎ、すぐに前へと進み行く。


(わりぃなディオン、力を使わせちまった)


(構わん、このくらいの消費ならばすぐに取り返せる)


 心を通し対話するディオンが順調にノヴェルカの咲く幹へと迫り、察したようにノヴェルカが花を閉じ大地を揺らしながら後ろへと退きながらツタと根の壁を作り視界を覆う。

 大精霊の防御行動にディオンは聖槍を握る手に力を入れ、その白き矛先に黒き雷を呼び寄せながらさらに前進し正面突破にかかった。


真・黒雷斬刹ブラン・スクーレ……!」


 下から上へ素早く振り抜かれる聖槍より白き雷が大地を砕きながらツタの壁へと向かい、命中と共に轟音を響かせ炸裂し打ち砕く。すかさずそこへ天より落ちる黒き雷が聖槍の切っ先に触れて周囲に拡散し、螺旋を描くが如く文字通りの雷雨となり左右背後から迫るツタと地面に潜む根とを貫き粉砕する。


 真なる姿を取り戻した聖槍の力を存分に扱うディオンがノヴェルカまでの道筋を捉え、睥睨する大精霊へと挑む。

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