大輪咲き誇り顕現する
一夜を過ごした後、翌日の朝。ノヴェルカの森の奥地に拓けたその空間は存在する。不自然にそこだけ木々はなく、ただぽつんと虹色に輝く一輪の花が咲き誇る場所だ。
厚みのある葉を咥えてかじるセレファルシアが腕を組んで佇む中、森を抜けてきたエルクリッド達が姿を現し清らかな空気と空間に心癒されながらもすぐに方に力を入れ、ゆっくりと前へと進む。
「確か……エルクリッドは星が六つ、オレに勝てればバエルへの挑戦権が得られる王手の状態だったな」
はい、とエルクリッドが答えながら参加証を引き抜いて見せつけるように突き出し、輝く六つの星の瞬きが煌めく。次いでシェダもニアリット、イスカ、アヤセの三人を倒し神獣二体を獲得した事で星は五つ、リオはリリル、クレス、イスカの三人で三つの星を持つ。
セレファルシアを倒せばエルクリッドは星が七つとなりバエルへと挑める。無論、それは倒せればの話であること、参加証をしまってエルクリッドの両隣にシェダとリオが並び、その後ろにタラゼド、ノヴァとつきさらに後方でシリウスが見守る姿勢を取るとセレファルシアが咥えている葉を噛み切って飲み込み、懐からカードを抜き魔力を滾らせ風を呼ぶ。
「覚悟できてんならさっさと始めんぞ……永遠の万象を築き上げる大精霊よ、久遠の大樹を伸ばし世界に咲け……! 大いなる試練となり君臨せよ、大精霊ノヴェルカ!」
ぽつんと咲く一輪の花にカードより滴る魔力の雫が触れ、次の瞬間に大地が鳴動しながらかの存在は姿を現し始める。
極彩色の大輪の花を持つ大樹がセレファルシアの背後より太く長く伸び、数多の根とツタが生き物のように蠢く中で花が咲き真なる姿をノヴェルカが現す。
圧倒的な存在感は言うまでもなく、強大すぎる事で戦慄を超え死を予感する程の圧にノヴァが気圧されるも、タラゼドが寄り添い支えエルクリッド達も冷や汗を流しながらもカードを抜く。
「お願いします、スパーダさん!」
「闇を祓って悪しき光を断って来い、ヤサカ!」
「氷解せし祈りよ、凛々しき刃にその思いを乗せ詠い奏でよ……力をお借りします、アビス」
エルクリッドが
同時にタラゼドもノヴァが落ち着いたのを確認してから少し離れてから魔力を滾らせ、彼らの姿に触発される形でノヴァも深呼吸をし頬を軽く叩き前を向く。
立ち向かう者達を前に睥睨するノヴェルカはフッと笑うと腕を組み、人差し指を立てると森のざわめきと共に黒光りする甲殻を持つ巨大昆虫や怪鳥、野獣といった魔物達が姿を見せエルクリッドらを包囲してみせた。
「我が名はノヴェルカ、エタリラの大地を司る者……此度の人間の営みとやらは我が出る事はない思っていたが、そなたらのような者がいる事は重畳というもの。久方ぶりに人相手に我が力を存分に振るわせてもらうぞ……!」
改めて名乗り全てを見下ろすノヴェルカが手を掲げ振り下ろすと共にまずは魔物達が一斉にエルクリッドらへと向かう。領域内の魔物が統率され攻めて来る事はエルクリッドらも事前に承知ではあるが、やはり目の当たりにするとかなりの緊張と重圧に押し潰されそうになる。
だが今回は、そうした状況であっても動じる事なく対応できる心強い仲間がいる事がエルクリッド達の不安を拭い去った。
「我導きしは荘厳にして穢を祓う大いなる息吹也……!」
指で斜めに空をタラゼドが切りながら詠唱し、刹那に大地を砕き天へ吹き抜ける暴風が魔物達を吹き飛ばす。
その瞬間にスパーダとヤサカが前へと走り出し、リオとノヴァもカードを抜いて魔力を込め動き出す。
「スペル発動、ブリザレイド!」
「ツール使用、虚弱の縄!」
舞い上がった魔物達へ氷の剣が降り注ぎ刺し貫いて地面へと叩きつけ、生命こそ失わないが再起不能へと追いやられる。そこへ更にノヴァが使用するツールによる捕縛が合わさり完全に身動きを封じられ、一連の流れにはセレファルシアもほうと感心の声を漏らす。
「まずはノヴェルカと戦えるようにしたか。いいぜ、来な!」
堂々と迎え撃つ姿勢を示すセレファルシアに呼応するようにノヴェルカが数多のツタを伸ばして迫るスパーダとヤサカを襲い、それらをかいくぐり、切り裂きながら進む二人のアセスの猛進は止まらない。
しかし、切られた側からすぐにツタは生え変わって数を増し、それらを全て捌けないと察したスパーダとヤサカは一度下がり立て直す。
「エルク、やはり簡単には行きませんね」
「そりゃあそうだよ、でも勝たないといけないからね……!」
エタリラの神格において大精霊は神獣に次いで高く、力だけなら同等の存在。ノヴェルカは全容で言えば世界最大の植物精霊、強靭な生命力を有し大地に生きる者を統べる存在だ。
挑むものではないと古来より言わしめ逆鱗に触れてはならないとされるものに挑むのは自殺行為に等しい、だがそれをする事で届くものがあるとエルクリッドは強く信じ、それを感じ取るスパーダもまた兜の下で笑みを浮かべる。
絶対的な力に完膚なきまでに叩きのめされたからこそ、それに等しいものに勝利を得る事の意味をエルクリッドはよく理解している。そしてそれはシェダやリオらもわかり、共に戦う事でより深く解るようにと思えた。
「ヤサカ、作戦通りに行く。とにかく俺らは切り込んで道を拓く」
「……御意」
セレファルシアの所へ向かう前に話し合った事をシェダとヤサカは振り返りながら次の行動に備え、リオも何も言わずに霊剣アビスを構え直す。
大精霊ノヴェルカを撃破するというのはほぼ不可能。しかし、今はセレファルシアのアセスであり、あらゆる能力行使にはリスナーの魔力を使う点が唯一弱点となっている。
無論、事前の情報でセレファルシア自身の魔力の多さは十二星召でも上位というのもあり、いかにして消耗させ戦闘不能とするかが鍵でありその為の策は構築済みだ。
最初の攻撃はセレファルシアからの挨拶といったもの、そう認識しつつエルクリッド達はカードを引き抜き闘志を燃やす。
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