成明学園に「暗黒卿」降臨?

紫紋飛鳥

「ASUKA」第一話 成明学園に「暗黒卿」降臨? part.1

 いつもと変わらず、騒がしくて、どこかぬくもりのあるアスカ家――という名の半ば屋敷じみた大所帯で、今日も一日が始まった。

 もうお昼も過ぎている。

 そんな中、警備部総司令官・尾上恵美さんは、珍しく私服姿でリビングにいた。ベージュのカーディガンにジーンズという、肩の力が抜けた姿の彼女は、ソファに寝そべってテレビを見ていたちび達――美奈ちゃんや舞ちゃん、それに優や雷牙たち――を呼び寄せて、まるで母親のように髪を梳いたり、抱きしめたりしている。

「ほらみんなおいで、ネコ団子だよ~~~~」

 すると。

「みゃあ💛」

 亜麻色の髪の毛を、ポニーテールにしている、雪の従妹の 6 歳児で少しぽっちゃりした智香。

「にゃあ💛」

 栗色の髪の毛をおかっぱカットにしている、丸顔でくりくりしたお目目の 9 歳の僕の母方の従妹で、この子もちょっとぽっちゃりしている優。

「にゃん💛」

 長くで黒い髪の毛、切れ長にしてつぶらな瞳がとってもかわいい、僕の父の再婚相手の連れ子で、結構スタイルがいい 12 歳の舞ちゃん。

「どうしようかな~~~~💛」

 亜麻色のきれいなロングの髪の毛、12 歳の割には、実に健康的なプロポーションで、時夫を困らせている雪の妹の美奈ちゃん。

 智香・優・舞・美奈――――彼女たちは大きなお姉さんや、僕や雪にペタペタ甘え、その時にはスリスリしたり「にゃ~~」と猫のように鳴いたり、そんなことしているので、みんなまとめて「ネコちゃんたち」と呼ばれている。

 え? 本当の猫はいないのかって?

 もちろんいるさ。

 最年長にして、メインクーンと三毛のハイブリッドで雌猫の「大福丸」

 智香ちゃんがうちに住むようになってから、「あたしもネコほしい」とおねだりしたので、泉のジー様が連れてきた、トルコヴァンと日本の白猫のハイブリッドである「マオ」。

 そして。

「ニャ」

「あ~~はいはい、君はまだ小さいからねえ」

 ・・・・・・ジー様が「飛鳥、ネコを飼ってみないか? 」というので、好みを伝えたら、そんなの関係なく、ネコ好きな人なら「萌え殺す気か!?  なんとウラヤマケシカラン!! 」と言いそうなほ真っ白でコロコロなオッドアイの僕の猫「ルナ」

・・・・・・とまあ、いるわけで。

 面白いのは、ネコにも序列があるというか、みんな雌猫なので、まるで親子のように仲良くしてる。

・・・・・・・・・・・・ああ、まあ、思うところはあるんだけど、いまはいいか・・・・・・。

「最近、ちょっと大変な仕事が降ってきてねえ~~~~。。

 あーもう、癒しがないとやってらんないの! 」

 そう言いながら、彼女は雷牙を抱っこし、優の髪にリボンを結び、美奈と舞にほっぺたをすりすりしていた。子供たちはキャッキャと笑いながら逃げていくが、恵美さんはそれを楽しんでいる。まるで、仕事という重圧から解放されるひとときの夢の中にいるようだった。

 そんな「ネコ団子」の傍らで、この家が建て直される前から、よく出入りしていた、僕の父方の従弟の進はスケッチブックに向かい、ひたすら絵を描いている。

 ・・・・・・もしかして、僕達の事かいてる?

なんて思う事もある。

 僕はリビングのソファに身を沈めて、少しだけ、虚空を眺めていた。

 ――そして、目が合った。

「……飛鳥君、君、最近、ちっとも『ゴロニャン』してくれないわね?

 こっちにいらっしゃい。耳かきしてあげようか? 」

「なんで耳かき……?」

「疲れてるんでしょ? あんた、顔に出るタイプだから」

 そう言って、彼女は当然のように僕の頭を膝に乗せる。ジーンズの太腿が思いのほか柔らかくて、つい顔が熱を帯びた。

 ――なんだ、この既視感。小さい頃、母にやってもらってたような……違う、違うだろ。

 これは、いろいろと違いすぎる。

 くすぐったいような、くすぐられてるような、複雑な気分の中で、僕は思わず彼女の膝に手を添えてしまう。

 次の瞬間――僕の意識の底で、“何か”が走った。

「……!」

 それは、情報だった。僕のサイコメトリング――物体や人間に触れることで、その記憶や情報を読み取る能力。それが、彼女の意図的な「接触」によって、作動していたのだ。

 脳裏に、映像が流れ込んでくる。灰緑色の肌。鋭く割れた瞳孔。水かきのついた手足。

 まるで――

「……ディノサウロイド……?」

 口に出してしまってから、自分でも驚いた。まさか、こんなところであれを見るとは。

 幼い頃、図鑑で見た“もし恐竜が進化して知性を持ったら”という仮説の産物。今見えているのは、まさにその姿だった。だが、これは CG でも想像画でもない。

「……ホンモノ?」

「本物よ。宇宙は広いんだから。

 猫が進化して人型になった猫の惑星があったって、恐竜が進化して人型になった恐竜の惑星だって、ありえるでしょう?  」

 耳かき棒を持ったまま、恵美さんは耳元でささやいた。

 さっきのふざけた顔は消えている。まるで司令官としての彼女に切り替わったみたいに、冷静で鋭い。

 だからこそ、誰にも言えなかった。政府機関の裏をかくような手段で、僕の力に託したのだ。

 ・・・・・・それだけ機密事項という事か?

 ……いや、まあ、別の方法もあっただろ!? とは思うけど、それ以上に、この情報は……まずい。

 頭を抱える僕を尻目に、メグ姐は飄々と耳かきを再開していた。

 ――だがその刹那、玄関が開いた音がする。

「ただいま……」

 買い物袋を提げたメイド隊の最年少者カオリさんが、珍しくスポーツ新聞を買ってきた。

 まあ所謂、三流新聞紙だけど。

 その見出しに、大きく踊っていたのは。

「印旛沼で河童目撃! ついに決定的証拠、か!? 」

 え?  うそ~~~~ん。

「ハイ!! 耳かき終わり。さて、ネコ分も弟分も補給したし、仕事に戻ろうかな~~」

 そういってメグ姐は大きく伸びをすると、視線をこちらに向けて、何かいいたげだった。

 イエスマム!!  いただいた情報を元に、調べてみます。しばしお待ちを。

 僕はリビングのノート PC を開き、「河童」について検索してみる。

 ちなみに僕のノートは、俗にいう据え置き型ノートで、オールインワン。

 でもまあ・・・・・・。

 こんなときのために置いたんじゃないんだけどね?

 まあともかく。

 まずは河童の絵をいくつか補完する。

 そして、大胆な仮説を立ててみる。

 即ち、ディノサウロイド=エイリアン=河童と考えてみた。

 メグ姐が居間からいなくなると、猫たちは、今度は雪にくっつき始めた。

 特に・・・・・・智香ちゃんはべったりだ。

 本当にほほえましい。

 その雰囲気に、水を差すようでとっても申し訳ないんだけどね?

「雪、猫たちの面倒見てるところ悪いけど、ちょっとだけ時間くれる? 」

「はい?  」

「ちょっとこれ見てくれる? まあ、日本じゃあ、妖怪とか、お化けの部類なんだけどな?  」

「お化け」――実は雪は雷とお化けと怪談が大の苦手――と聞いて、少し顔をこわばらせるも、

「……あ、これ。」

僕のノート PC をのぞき込みながら――そうしている間に、さりげなく、優を僕の背中に乗せてるあたりちゃっかりしてる――しばらく見つめると

「これ、本当にお化けとか妖怪?

 あたしから見るとディノ星人に見える。

 うちのお得意先にいるわよ。」

 ごく普通に、そんなことを言ってのけた。

 僕は、情報整理モードに入るしかなかった。

 河童=ディノ星人?

 それなら

①なぜ最近になって姿を現したのか?

②目撃頻度は?

③目撃地域の傾向は?

 僕は、頭の中でこの三点を並べ、

「香澄さん、ちょっといいかな? 」

 わが家の諜報参謀ともいえる、香澄さん――――水鏡香澄に情報収集と分析をお願いする。

 いつもの日常はなにげなく、非日常へと、溶け出していた。

 かおりさんが新聞を広げてからわずか数十分。

 僕はすぐさま状況を判断し、動き出した。

 ふと思う。

「この件、確実に僕たちに関わってくる……ならば・・・・・・」

「情報収集は、私の専門です。若旦那様、他の皆様は、猫でも撫でて、リラックスしてお待ちください」

 僕がやろうとしていたことを、香澄さんが自ら引き受けようとする。

 彼女は、優雅に一礼して、自身のオフィス兼私室へと戻っていった。

 扉が静かに閉まる音と同時に、場に再び静けさが戻る。

 僕はしばし考え込み、ふと顔を上げる。

「……そうだな。一郎、少し早いけど、お茶の時間にしよう。とりあえず僕にコーラをお願い」

 すかさず、ソファの端でスケッチブックを広げていた進が顔を上げる。

「ああ、一郎さん、すんません、俺はコーヒーで」

 どこか落ち着いた空気が漂いはじめるその刹那、何かが僕の膝にぴたりとくっついた。

――白猫のルナだ。まるで「あたしの定位置」と言わんばかりに、優雅に身体を丸めて僕の太腿にのっかる。

「あっ……うぅぅ……ルナ、また先越された……」

 僕の従妹にして、桑形家の事実上の末っ子の優が口を尖らせながら、それでも大人しく僕の右隣に座る。

 ぽっちゃりとした可愛らしい体を収め、自分の愛猫をそっと抱き寄せた。

 その反対側――僕の左隣には、舞がすかさず滑り込んできた。

「この角度があっ……お兄ちゃんが一番格好よく見える位置っ!」

 そう言って、自慢げに見上げながらぴたっと腕を寄せる。

 ソファに座る僕の足元には、弟の時夫がちんまりと正座。

 舞の隣には、どっしりと構えるように座る、雪自身。若女将であり、僕の妻でもある。

雪の膝には、まるで御姫様のように甘える、彼女の母方の6 歳の従妹・智香。

 そのままくすぐったそうにスリスリしながら、彼女は雪の指先にじゃれていた。

 雪の隣には彼女の妹である美奈がさも「当然でしょう? 」とばかりに涼やかな表情で座っている。

 僕の足元、時夫の隣には雷牙がきちんと正座していた。

 長い黒髪を一筋にまとめたその姿は、どこか参謀のようで、だが年相応の可愛らしさもあった。

 雷牙の隣には――なぜか、進の弟・星雄がちょこんと座っている。

 にこにこしながら、猫のおもちゃをいじっている。

その背後――高めの椅子の上から、皆の様子を静かに眺めているのは、雪の一つ年上の従姉・夏美。

ソファの背もたれに肘をつき、肘に頬を載せながら、にこにこと微笑んでいた。

そんな光景をしばし描いていた進が、ぽつりとつぶやく。

「……パパ? 」

「パパいうなあっ!! 」

 もうね・・・・・・。

 こうなるとね・・・・・・・・・・・・。

「ヲ約束」なわけで。

 一同、どっと笑いがこぼれる。

 すると。

 突然 LINE が入る。

「あのう~~~~、突然ですが、これから遊びに行っていいですか?  もちろん、泊りがけで」

 差出人は、咲沢一。 僕はニヤリと笑って指を動かす。

「遠慮はいらない。ちょうどこれからティータイムだ。

 それに、こっちは星を股にかけた大豪農!!

 ザッハトルテだろうが芋羊羹だろうがショートケーキだろうがアイスクリームだろうが、いやというほど食わせてやるwwww」

 即座に返ってきたのは、絵文字付きの返信。

「スンマセンマジ勘弁してください😅🙏」

 だが、これこそが子供の頃からの付き合いでしか通じない、**“男たちのヲ約束”**である。

 ふと思いついて。

 ソファに座る進に声をかける。

「進、14 歳組に、全員声かけて。泊りがけで来いって」

 進は目を細め、兄のような僕に表情を見た。

 そこに、普段とは違う緊張感が宿っているのを、彼は敏感に感じ取った。

「……了解。詔(みことのり)とあらば」

 スマホを取り出し、すばやくグループチャットにメッセージを打つ。

「飛鳥の兄貴から、泊りがけで遊びに来いと、詔があった。各位、最優先事項とし、すぐに集まるように。なお、装備は、二泊三日とする」

 そのメッセージに、続々と「了解」「おう」「はーい」のスタンプが返ってくる。

 居間には、まだ笑顔と甘いお菓子と猫の温もりがある。

 でも・・・・・・。

 きっかけは手にした。

 それでも僕の中で、あるいは現実的に、迎撃態勢も何も整っていないのだ。

 今のところは、何をどうしたらいいのか、まったくわからない。

 先方の戦力だって、全く分かってないのだ。

 しかしメグ姐から仰せつかったのは、「隠密任務」。

 そうなれば、まずは人出が多いほうが良い。

「あら、飛鳥君?」

 廊下の奥から、和服姿の静香がふわりと現れる。

 手にはお盆、背筋は伸び、品と気品を湛えた立ち姿。けれどその表情は、まさしく母親だった。

ソファの中央で、猫に膝を占領されながら子どもたちに囲まれている僕を見て、お義母さんがクスリと笑う。

「……何時の間にそんなに子供を作ったの?」

 その場が一瞬、凍る。――そして、どっと笑いが広がる。

「いや、それはさすがに……ッ」

 困り笑いしながら頭をかく。

 けれど、その横で雪が小さく肩を震わせながら笑い、舞も、優も、ちびたちも大はしゃぎだ。

 お義母さんは、すかさずスマホを構えて一枚パチリ。

 その画像を、すぐに僕と雪の LINE に送る。

『あなたたちの未来の家族の想像図ってところかしら? まあ、今でもそうかもね』

 ・・・・・・確かにそうなのかもしれない。

 ここには、僕が守ってきた、大切な人たちがいるのだから。

 なんだか、お義母さんは、それも分かっていて、そういっているような気がする。

 その瞬間――

「にゃ……」 膝のルナが小さく鳴いた。

 ・・・・・・またかよ・・・・・・。

 左の胸に、ほんのかすかだが――違和感。

 不整脈か? ほんのわずかだけど。

 その変化を、誰よりも先に察知したのは、メイド隊筆頭このめさんだった。

 彼女は、正看護師の資格を持っている。

 しかし・・・・・・。

 一癖も二癖もあるような病院に勤務し、看護師長になるも過労状態に。そんな病院だから、退職金もくれず。所謂「障碍者年金」をもらって生活しているところを、静香さんに「その知識を使って、うちのメイドにならない? 」とスカウトされ、以来住み込みで働いている。

 なお・・・・・・。

 大海原の力で、この病院は後日、つぶされたとかつぶされなかったとか。

「……若旦那様、お加減がすぐれませぬか? 」

 静かに膝を折り、いつもの手つきでお盆を差し出す。

――そこには、飛鳥の好きなスイーツが三種、そして。

 彼女は何故か、それとなく、手首で脈をとる。

「これは、効きますよ」

 そう言って、一郎が置いたのは――キンキンに冷えた 1.5L のコーラ。

 いつもと変わらぬ仕草で、グラスにコーラを注ぐ音だけが響く。

 だが、一郎はそのままこちらを見ないで語る。

「……先方の戦力が分からないならば、手勢を集めるのが得策と存じます。ならば、素手でも十分戦える、国際科学研究所の長老の皆様にも、こちらにお越しいただくのがよろしいかと」

 一郎から差し出されたコーラを、軽く流し込み。

「……任せる。迎えは君に。あと、おもてなしの準備を忘れるなよ」

「かしこまりました、若旦那様」

立ち上がる一郎の背中には、彼もまた“誇りある従者”としての決意がにじんでいた。

 彼は退役軍人。数々の戦場を掻い潜り生き残るも、その度に強くなる悪夢にうなされ、PTSDと診断された。仕事先を探していた時に、大海原のお義父さんに「その知識と体術で、我が家を守ってほしい」とお願いされ、以後、住み込みで働く筆頭執事となった。

 その背中をみせられてはねえ。

 違和感を抱えていても、周囲が気づいていても、

今の僕は崩れないし、崩れちゃあいけない。

 雪と出会ってから、いつの間にか夢に見てきた、「若旦那」になること、それをやっと手にした。

 そして、「あの日」危機的状況に陥ったけど、守り切った。

 ・・・・・・って、ここで来るかよ・・・・・・。

 グラスのコーラを飲み干すーーーー少なくても、今は崩せない。

 これは・・・・・・そう、僕の意地。

 若旦那としての意地。

 そして、次第に、集まってくる。

 仲間たちが、そう、僕の「戦友」が。

 静かな屋敷の中に、少しずつ――だが確実に、風が吹き始めていた。

 一方一郎は、LINE で次のように打ち込む。

「今夜、飛鳥邸にてディナー。

 できれば、顔を出してほしい。

 食って、飲んで、語って、そして備えるために――」

 送り先は、国際科研の長老たち、警備部の関係者、博美さんも、ドクターも、じ~様も。

 そしてそれぞれが、招集された全員が「ごはん目的だけではない」とわかっている。

 そんな時に現れたのは飛鳥邸“狩猟担当”、五郎である。

 彼はとても腕の良い猟師だ。

 たがそれ故に妬みをかい、左足の膝から下を仲間から「誤射」された。その後、血の匂いに誘われたクマに、右足も食いちぎられ、瀕死の重傷を負い、クマに命を取られそうになったところを、クマを一郎に対物ライフルで始末され、このめさんに応急処置をうけ、一命を取り留めた。

 その後、国際科学研究所附属千葉総合医療センターで手当を受け、しばらくは復讐の鬼と化していたが、一郎の戦場の話しを聞くにつれ、その気持ちも無くなった。そして、総合工学研究所が造った高性能な義足をつけるように。助けてもらった恩をお返ししたいと自ら狩猟・鶏の放し飼い等などを担当する5番目の執事となった。

「若旦那様、今日は……ヒグマを食べてみませんか」

 進でさえツッコまない

 それほどこの家ではよくあることなのだ。

 確か先日は・・・・・・イノシシだったかな?

 数日前、北海道で仕留めた巨大ヒグマ。その肉はちょうど熟成のピーク。脂も香りも、いまが最高潮だと五郎は語る。

「今日しかありません。この脂、香り、そして“野性”。まさに“戦い”にふさわしい食材です」

四郎が「ポテトとトウモロコシのケアは私が」とサイドディッシュの準備を整える。

 彼はこの内房では腕の良い漁師で、自分で船を持っていて、しばらく見かけないと思ってると、カジキマグロを釣ってきたりする。

 しかも調理師の資格ももっている。

 お義父さんの釣り仲間から紹介され、うちで住み込みで4番目の執事として働くようになった人。

二郎ーーこの人は天才ハッカー ーーは玄米2:白米8の混合比でご飯を炊き上げ、メイド隊の皆さんが食卓と座席のバランスを完璧に整えた。

 ヒグマのグリル、香ばしい混合米、トロリとしたマッシュポテトにグレイビーソース。

 焼きトウモロコシの焦げが香る中、最後には冷たいアイスケーキが控えている。

 一堂は自然と笑い、語り始める。

 メイド隊も、執事隊も、飛鳥も、その顔に険しさを解いていた。

 素敵な夜だ・・・・・・。

 静香が微笑む。

「あなたが“家族”ってものを作ったからよ。私たちは、それに甘えているだけ」

 一郎がコーラを手渡す。

「若旦那様、今夜だけは少し肩の力をお抜きください」

 恵美が一口コーヒーを啜り、呟く。

「明日から地獄だものね」

 咲沢一が唐揚げを口に運びつつ、元気よく

「やっぱ肉だよ、肉!」

 と笑うと、天晴が

「まさに“兵糧”ですな!」

 と調子を合わせ、瑛翔は

「ヒグマって、コーラに合うっすね!!」

 と豪快に乾杯。

 そして心の中で、

(これは、ただの“飯”じゃない。全員に伝える。“俺たちは、すでに一つだ”と――)

 野郎たちが豪快に食っているそばで、進が気を利かせてガールズチームにも LINE を送ってくれたおかげで、屋敷には、進の彼女の純や、その妹のくぬぎちゃん、一の彼女のお由美さんと、一の妹で兄貴の浮気には問答無用でプロレス技をかける燕ちゃんまで。

 大きい子が小さい子の面倒も見ながらも、それぞれが楽しく、夕食を楽しみ、雑談で楽しんでいた。

 ・・・・・・そうこうして・・・・・・。

 夜も更けた。

「じゃあ、ご高齢の皆さんはお酒が入っているので、飲酒運転は一発免停ですから、止まっていってください。

 14 歳組の寝床はこのソファーを展開したソファーベッドだ。寝具も入っているから心配するな。

 進と一もココで寝てくれ。僕もココで寝る。

 女の子たちは、恵美お姉さん以下、みんなで大海原の屋敷へどうぞ。

 ・・・・・・まあ大きなお姉さん猫にたっぷりゴロニャンしなさいねwwww」

 するとさっそく、優と智香がお姉さんに「にゃあ!!  」とすり寄る。

 そんな中、博美さんだけは、ほほ笑みながらも、一人浮かない顔をしていた。

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