第1話

朝、目を覚ますと、スマホがやけにうるさかった。


「あれ、充電切れてたのに。」


「おいおい……システムアップデートの通知ってレベルじゃねぇぞ」


 画面には、見慣れないアプリが勝手にインストールされていた。


 その名も――《神々の盤》


 冗談かと思っていたが、SNSを開けばその話題で持ちきりだった。


『本日、全世界で“神々の盤”が発動。全人類が勇者、または魔王へと分かれることになります』


 なんだよそれ、RPGのやりすぎか? そんな風に笑っていたのも束の間。


 スマホが突然、光り出す。


「太田佑樹様。あなたは、“魔王″としての資格を確認……完了」


「ふつうだな……って、あれ? 画面がまだ……」


『エラー確認。勇者側の素質も確認のため特殊個体認定。あなたは《勇者》かつ《魔王》としての両側面を保有する唯一の存在です』


「……は?」


 理解が追いつかない。なに? 結局どっち?


 困惑していると、部屋の空間が急に歪み、目の前に光の柱が現れた。


 するとそこから、女の子が降りてきた。


「はじめまして、ご主人様。私はアリシア。あなた専属の補佐精霊です」


 白銀の髪に、透き通った青い瞳。ふわりとした衣装に、小さな杖。ファンタジーから抜け出してきたような美少女が、俺の前でにっこりと微笑んでいた。


「……えっと、なろう系コスプレをした新手の宗教勧誘ですか?」



「違います。あなたは本日より、“魔王”としてのダンジョンを運営する義務と権利を有します。そして私はその補佐役。以後、お見知りおきを」


 彼女が杖を軽く振ると、部屋の床が一部、音もなく崩れ落ちた。


「ちょっ……ちょっと!?」


 崩れた床の下には、階段。そして……信じられないことに、その先にはまるでRPGのダンジョンのような、石造りの空間が広がっていた。


「……俺の部屋、地下にダンジョンできてる……」


「はい、ご主人様のダンジョン、初期構成完了です。これより、ダンジョン内の罠・モンスター・構造の設定を行っていきます」


「まじかよ……」


 夢か現実か判別つかないまま、俺はユリシアに連れられて、自分のダンジョンの最奥――「魔王の間」に通された。


「ご主人様には、毎朝8時に“構築ポイント”が支給されます。これを使って、罠を設置したり、モンスターを雇ったりできます」


「毎朝ポイント支給……まるでスマホゲーだな」


「ええ、ダンジョンを攻略されればポイントが減り、逆に勇者を倒せば増えます。また、他の魔王のダンジョンを攻略して奪うことも可能です」


「ちなみに、勇者にダンジョンを攻略されると死亡、他の魔王に負けると死、もしくは奴隷ですね」


「命掛けでダンジョン運営しながら、侵略して稼げってわけか。ブラックな世界だな……」


 スマホを開けば、地図に日本全国のダンジョン勢力が表示されていた。都内だけでも数百の魔王。完全に異常事態だ。


「なお、ご主人様は“勇者”としても登録されておりますので、他魔王のダンジョンに潜入することが可能です。」


「ん?どういう事?」


「事前の回答のセーブ中に電源が切られたようで、エラーが起こったみたいですね」


「昔のゲームみたいな事やってんな」


正直、ド派手なスキルの方が欲しかったが


贅沢は言ってられない。


始まってしまったこの“ゲーム”に、ルールはもう存在しない。


「やってやろうじゃねぇか……!」


俺のダンジョン運営が、今、始まる――!


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