第12話 まだまだ小さな芽と氷


放課後の家庭科室。

ミシンや布地が机いっぱいに並び、9人はわいわいと衣装作りを始めていた。


「リボンは絶対でっかいのがよかって!根性リボン!」煉佳れんかが赤い布を広げる。

「でかすぎ!そしてそれリボンやなくてハチマキやん!」はなが慌てる。


「ウチは紫のフリル盛り盛りで決まりやね!」莉愛りあが布をじゃんじゃん切り出す。

「いや、それライブじゃなくて夜のお店で着るやつ……!」結衣ゆいが頭を抱える。


「アイドルは宇宙…。スカートに星座を縫い付けよう」日菜ひながボソッとつぶやき、

「日菜も真面目に!」と結衣が即遮る。


「……今描いてるから」蒼葉あおばは端っこで衣装のデザイン画を黙々と描き続ける。

「おーい、手動かせ!」煉佳が突っ込むが、スルー。


「わたくしのは絹と宝石を使いましょう」瑠璃るりが当然のように提案する。

「そんな格差ダメ!!」あかりと花が同時に悲鳴を上げた。


布は飛び散り、糸は絡まり、ミシンは唸り声を上げ――。

ついに結衣が机を叩いた。

「みんな!落ち着きなさい!」


ピタッと全員の動きが止まる。

「……リボンとフリルを統一。それぞれの色を生かす。これで十分でしょ」

「さすが結衣!」「まとめ上手〜」


数時間後。

多少の歪みや不揃いはあるものの、9人分の衣装が完成した。


光が出来上がった衣装を広げて言う。

「これで……Aster《アスター》の始まりだね!」


夕暮れの家庭科室に、達成感と笑い声が響いていた。



そして迎えた学園祭当日。

色とりどりのクラス展示に賑わう中、いよいよ「Aster」の出番が回ってきた。


「うわぁ、緊張してきた……」花が胸に手を当てる。

「大丈夫!練習の日々を思い出せ!」煉佳が背中をバシッと叩き、花が小さく悲鳴を上げた。


「バリやば、客めっちゃおるやん!」莉愛がひそひそ声で笑う。

「……静かに。始まるわよ」結衣が衣装を整え、全員に目配せする。


音楽が鳴り、照明が落ちた。

ステージに飛び出した9人。

観客のざわめきが一瞬で熱気に変わる。


――しかし。


「歌詞が……とんだ…」光の声が震える。

横で花が立ち位置を間違え、瑠璃に足を踏まれて転びそうになる。

莉愛は慌ててカバーに入るが、動きが派手すぎて逆に悪目立ちしている。


「ちょっ、フォーメーションずれてる!」結衣の焦りも虚しい。


蒼葉は省エネすぎる動きで浮いて見える。


日菜はマイペースに遅れて振りをしていて、心春こはるも緊張でリズムが半拍遅い。


観客席は唖然とし、先生は険しい顔をして腕を組んでいた。


――数時間後。


カフェの一角。

制服姿のまま座る9人の表情は重かった。


「はぁ……ボロボロだったね……」花がストローをいじる。

「悔しい!」光が机をドンと叩き、アイスコーヒーが揺れる。


「……笑われてた気がする」心春が俯く。

「まぁ、笑われても仕方ない出来だったわね」結衣も素直に認める。


「根性足りんかったな!」煉佳が苦笑し、

「ウチは盛り上げれたよ!……逆に目立ちすぎたけどw」莉愛が肩をすくめる。


「お水ってね、神秘の液体なんよ」日菜はマイペースに蒼葉に語っている。

「……今描いてるから」蒼葉はスケッチブックに何かを書き込みながら呟く。

「もうやめて、2人とも……」結衣が疲れた声で突っ込む。


しばし沈黙。

しかし光が勢いよく顔を上げた。

「でも!次はもっといいステージにしよう!私たちならできるよ!」


「うん……次こそは!」花が笑顔を取り戻す。

「根性だ!」煉佳が拳を突き上げる。

「バリやばライブにしよ!」莉愛がウィンク。

心春も、少しだけ前を向いて頷いた。


そんな中――。

瑠璃がゆっくりとグラスを置き、冷静な声で言った。


「わたくし、これでお約束通り……辞めさせていただきますわ」


全員の笑顔が凍りついた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る