第5話 冒険者の第一歩

 鳥のさえずりが俺の朝を祝福してくれている。差してくる日差しが門出を祝ってくれている。そんな気がするほど清々しい朝を迎えた。


「新人冒険者さん、いってらっしゃい!」


「おう。行ってくる! 夕方までには帰って来る!……と思う」


「ふふふっ。……生きて帰ってきてね?」


 最後の言葉には今までの行ってらっしゃいにはない重みがあった。そうか。冒険者は常に死と隣り合わせな職業。それを支える奥さんは毎日無事に帰って来ることを祈っているのか。


 そんな心労を負うとわかっていながら、俺が冒険者になることを良しとしてくれたのか。本当にミアには感謝しかねぇな。


「あぁ。必ず」


 精一杯力を込めて言葉を紡いだ。言霊ってのはあると思うんだ。口にしたことが現実になる。だから冒険者にもなれたんだからな。


 見送ってくれるミアに振り返って手を上げる。

 やってみたかったんだ。このカッコいい去り方。

 よく勇者の冒険記とかで会ったりするんだよな。


 憧れたもんだ。冒険者に憧れたのも冒険記を読んだりした影響もあると思う。


「おっ! ガルさん、もしかして!」


 武器屋の旦那が声を掛けてくれた。旦那も出勤途中だったみたいだ。


「実は……冒険者になりました!」


「おぉぉぉ! 漢ですなぁ。応援してますよ。武器なら是非ウチに! お安くしますから!」


 両手を広げて近づいてくる。抱き着かれると思ったが、直前で止まって両腕を掴まれた。


「そ、それは、ありがたい! 今は中古のロングソードですが、少し稼げたら買いに伺います!」


「ほっほっほっ。そうしてください!」


 手を振ると立ち去った。


 なんだか、見られている気がする。

 なんだろう?

 なんか注目されてる?


「おっ! 主役のお出ましですね!」


 バンダさんがギルドの入口で立って待っていた。


「えっ?」


「「「冒険者合格おめでとー!」」」


 いろんな応援してくれていた人からもみくちゃにされる。いったいこれは何なのだ。いろんな人に抱き着かれたり叩かれたりして、祝福されているのか?


「ガルさん、こんなにみんなが歓迎する新人冒険者なんてすごいですよ!」


「……そ……なの?…………なに……これ?……」


 人混みに押しつぶされんと頑張るが、なんかもみくちゃにされた。

 ひとしきり押しつぶされた後。


「そこまで! ガルを殺す気か! これから冒険者カード支給するんじゃから邪魔するな!」


 ローグさんが声を上げて助けてくれた。

 よかったぁ。


 みんなが道を作ってくれた。

 受付までの花道。

 なにこれ? どういう待遇?


「ふふふっ。これからお願いしますね。受付をしてます。キアラです。まぁ、他にも受付嬢いるんですけど、驚くことなかれ! ガルさんは私の担当です! いきなり担当が付くことなんてないんですよぉ?」


 エメラルドグリーンの綺麗な髪を靡かせて大げさに笑うキアラさん。紙と同じ色の瞳に、少しタレ目で愛嬌がある丸顔。たわわに実っている者がカウンター越しに見えているが、あまり下に視線を落とさない方がいいだろう。


 なぜなら、知っているか親父ども。女性というのは、男の視線を感じてどこを見ているのかを察知できるらしい。だから、要するに、下心をまるっと読まれているということなんだ。


「そうなんですね。これから、よろしくお願いします!」


「最初に来た時から、だいぶ引き締まりましたねぇ。ホントに毎日毎日すごいですよ。私、尊敬しちゃいます!では、冒険者カードの発行をしますね」


 なにやら今記載したものを読み込ませている。不思議な技術が使われているのだ。なんでも古代文明の代物らしい。ギルドの人もどうやってカードにインプットされているかわからないらしい。


 発行されたカードは木製の物に名前が刻まれているカード。冒険者ギルドでのみ読み取れるのだ。


「はい。どうぞ。ちなみに、なんで木製かわかりますか?」


「えっ? みんな木製じゃないんですか?」


 ここは、素直にわからないということが正解だとなんとなく思った。ここは、格好つけるところではないと。


「ふっふっふっ。それはですねぇ、ランクが関係しているんですよ。初級冒険者はF級で、通称ウッドといいます。その次がアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、オリハルコンとランクが上がって行きます!」


 おぉぉ。冒険者っぽいなぁ。嬉しい。ウッドな。俺はまだまだだってことだ。鉄でさえない。壊れやすい木なんだ。


「なるほど、まだまだ脆いってわけですね。強くなりますよ」

 

「期待してますよ。なんせ、ギルド長の推しですから」


 腕を組んで胸を押し上げながらそう語るキアラさん。


「ギルド長?」


 誰のことだろう?

 ギルド長なんて偉い人とはあったことがない。


「はっはっはっ! そらそうだ!」

「ちゃんと言ってないもんな!」

「おじさまもやられましたわね!」


 一体何のことだかわからないけど、みんなが笑いながらこちらを見ている。どういうことだ?


「ワシがギルド長だ。ガル。今日から、気張れよ? 死んだら地獄に落としてやるからな!」


 頭が混乱してグルグルしている。

 意味が分からなかった。

 ローグさんがギルド長?


「ハッハッハッ! 皆には周知のことだったけど、ガルは知らなかったよな」


 本当にローグさんがギルド長だったんだ。


「なんかすみませんでした。脇腹大丈夫ですか?」


「あの程度、へい──いでっ」


 横からニコニコしながら脇腹を突いたキアラさん。ちょっと恐怖を感じたのは内緒にして欲しい。知られたら、なんか怖いことになりそうだから。


「うっ、うん。まずはF級だ。薬草の採取や、ペット探し、ウッドランク魔物の排除をしてもらう」


 おぉぉぉ。冒険者っぽいな。


「嬉しそうな顔をしおって。ちゃんと仕事しろよ?」


「はいっ!」


 直立して返事をすると、ローグさんが説明してくれた。


「そっちの掲示板に依頼が張り出してあるんだ。ウッド、アイアン、ブロンズ、シルバーまでは一階に張り出している。ゴールドから上は二階に張り出している」


 二階も行ったことないけど、二階は皆の憧れってことだね。バンダさんはA級ってことはプラチナか。凄いな。本当に尊敬に値するよ。


「二階へ行けるように頑張ります!」


「ワシはな、ガルは行けると確信しておる。精進することじゃ」


「はいっ!」


 後ろの棚から資料を取り出すと、紙を渡してくれた。


「ガルは、まずこの依頼を受けるといい」


 記載されていた依頼は、薬草を沢山欲しいということだった。夏場の暑い日は暑さに負けてしまう人がいるので、薬草を使った薬が多く必要になるんだとか。


「わかりました!」


「薬草はわかるか?」


「ローグさんは知らないんですもんね。俺、元は道具屋なんですよ?」


 ローグさんは目を見開いて「えっ⁉」といった。


「まさか、四か月前に世代交代した、ラブミア道具店か⁉」


 知っていたことに驚き、こちらもちょっと固まってしまった。


「……えっ? そうですけど……」


「マジかよ! オレずっと行きたかったけど、忙しくて行けなかったんだよなぁ。日の入りにはしまっているだろう?」


「そうですね。暗くなる前には店じまいしてたんで」


 悔しそうにカウンターを叩く。


「よく自慢されたんだよなぁ。クソォ!」


「息子のシュウがうまくやってますよ。今からでも遅くはないです」


「そうだな。すぐ行こう。じゃあ、気張れよ?」


「はいっ!」


 冒険者カードは受け取った。これから冒険者としての活動が始まる。


 薬草採取。形も群生地も知っている。何とかなると思う。


 驕らずに頑張って行こう!

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