第10話 全部私が悪いとか…じゃあ魔法少女になる

「だが断る!!」

ダガコトワル ダガコトワル …


闇の空間である間の世界に私の声が響いた。

虫女様とメイドの冥途は目を見開いたまま硬直していた。今までの流れなら『神様の命令』となったら誰もが名誉なことでありYESと答えてきたのだろう。だが私は、


(嫌に決まってるじゃあないですか!!こんな訳の分からない空間で、体も金縛りになった状態で、唐突に『やれ!』とか言われたら、断るでしょ!そもそもこの虫女様が神様とか言いますけど~警察官です!と言って近づく詐欺師もいるし~)


と思ったからだ。自分の身の安全を考えると断ることは多分危険なことなのだろう。でも、うさんくさい相手には普通の反応だと思う。だって、見るからに、胡散臭いですよ!と心の中で自分の判断を肯定していた。すると、メイドの冥途がすぐさまカンペに殴り書きをしてこちらに見せた。それも必死の形相で!


(え~っとなになに?)

『お願いします!姫はこう見えてニートなんです!せめてここらで何らかの成果が必要なんです!じゃないと大御神様に怒られちゃいます!折檻ですよ折檻!!怖いんですよ大御神様!』


私はカンペの内容を見て、虫女様を見て、再びカンペを見た。


「アンタも大概ね…」


と私は憐れんだ目で同情の言葉を虫女様に投げつけた。すると


「うるさいうるさいうるさい!私は表に出るのは嫌なの!!面倒なの!!!働きたくないの!!!」


と先程までのクールで知的な感じが一気に壊れてしまい、その場で地団駄を踏み続ける虫女様だった。「なるほど、こっちが『素』か」と分かってしまった。私は深い深いため息を一つついて口を開いた。


「やっぱり怪しい勧誘と同じだったじゃない。自分が働かずメイドに仕事をさせた挙句、上手くいかなかったら地団駄を踏むとか子供か」


と、ド正論パンチをブチ当ててみた。すると「うぐぅ!!」と精神的なダメージを受けた虫女様はそのまま仰向けに倒れてしまった。メイドが急いで虫女様に近づくと


「万策尽きたーーー!!この世はクソだ!!クソ以外の何物でもない!!クソーーーーー!!!」


などとお下品な言葉遣いで喚き散らしていた。そして「うっう…」と顔を抑えながら泣き始めた…私は、全く、虫女様を哀れとは思わなかったのだけれど、メイドの冥途には少し同情した。

虫女様の周りをうろうろしながら「どうしましょう、どうしましょう」と狼狽えているメイドを見ていて、私はふと昼間の一件を思い出した。保健室のホワイトボードに私に文字(?)を書かせようとメイドが狼狽えていたなと。


(あの時の里美の変化ってなんだったんだろう?それに文字の線の奥に見えた世界って、ここなのかな?)


自分で思いついた事なのだけれど、寒気がした。つまり、あの文字の中の世界に私は引っ張りこまれているという事になる。先程から馬鹿なことを繰り返しているけど、とても摩訶不思議な体験を今しているんだと改めて思った。


(…少し落ち着いて考えよう…まずはあの時里美に何があったのか。これだけは聞く必要があるわ)


と考え直して虫女様を見ると、未だ泣きながら「クソが・・・滅びろ…うっう」と口から呪詛を垂れ流していた…「あ、もうなんか関わりたくないな~ごめんね里美」っとちょっとだけ思ったのだけれど、不意に里美の顔が思い浮かんだ。その顔は満面の笑みで、私を見ていた。そして、私にヘッドロックをかけながら筆箱で頭を殴りだした!!


妄想の里美「アンタは!宿題ぐらい!ちゃんとなさい!よ!!ゴリュ!ゴッゴ!ゴスゴス!」


「ひゃい!!」


と私の口から悲鳴が漏れた。それは条件反射のごとく、宿題を見せてくれる里美様に従うように、漏れた。その変な声にメイドが反応したらしくこちらを見た。そしてカンペに『どうかなさいましたか主様!?』と殴り書きの文字を見せてきた。妄想の里美を振り払いながら、私はメイドに放課後の件を訊ねてみた。里美様が怖かったから、というのもあるけれど…


「いやね?里美っているじゃない?ほら、最初に保健室から出た時、アンタは私を誘導したでしょ?あれって何だったのかなっと思って。それと里美って何かあったの?」


とここにきて実にまともな会話をしたなと私は思った。ぶっちゃけTVで言う『尺の取り過ぎ』だと思うぐらい羽陽曲折有ったなと思った。私のその質問にいち早く反応したのは、意外にも転がったまま嗚咽交じりの呪詛をまき散らしていた虫女様だった。泣くのを止めて、そして倒れたまま私の質問に答えを返してきた。


「それが私の役目なのよ」


と短く呟く。


「役目?あれが?」


私は理解が出来ず言葉を返した。虫女様はのそのそと立ち上がり、メイドも汗を拭きながら急場を凌いだ感じを出しつつ再び私の隣に立ったみたいだった。虫女様は真っ赤になった目をぐしぐしと拭きながら格好のつかない状況ではあるが、なんとかぽつぽつと説明を始めた。


「ズズ(鼻をすすりつつ) そう、役目。『貴女が彼女に合った文字を無意識下で見つけた。それを女中の冥途が意識下に掬い上げて貴女に知らせた。その文字を貴女が書いた。私が介入し、【処理できる場】が出来た。』これが役目の流れよ」


全く言っている意味が分からない私だった。数多にはハテナマークが多数出ていただろうと思う。呆けた顔の私に虫女様は話を続けた。


「ふう…すこし落ち着いた…ズズ 寝てる間に見る夢というのは、今で言うと記憶を整頓させたり、精神的なショックへの耐性を上げるためにあるって聞いたことないかしら?」


また話が変な方向に向こうとしている感じがしたけれど、私の好む話題なので先程よりもしっかり耳を傾けた。興味があるというのは偉大だな…などと心で思いつつ、虫女様の問いに「あるわよ」と短く答えた。


「そう、話が早いわね。つまり『夢』とは、さっき言っていた『個人で完結した形の再現』を行っているのよ。ズズ クシュン! あ~… 夢の中で全く知らない物が出てきたとしても、それは自分の知識が作り出した形なのよ。ここまではわかるわよね?」


と未だ鼻を啜りながらも何とか話をしている虫女様に私は「わかる」と小さく答えた。つまり自身が知らない記憶、もしくは知識外の事が夢には出てこないと言いたいのだろう。虫女様は虚空からティッシュを取り出し一度鼻をかんで話し出した。


「ふう…何処まで話したっけ? ああそうそう、夢は形の再現を行っているってことね。個人で完結した形の再現には限界があるんだけれど、時々、ほんとうに時々、この『間の世界』に介入してしまう事があるのよ。貴女は器もあったし私の女中が傍に居るから大丈夫だった。だけども一般人が介入するとどうなるかしら?」


と虫女様はまた質問形式の話をしてきた。私もその掛け合いは少し気に入っているらしく感じたことを素直に答えた。


「つまり、耐えられないってこと?」

「正解」


スッと正解と言われたのが少しだけ嬉しく思う私だった。先程の元気(プライド)を取り戻したのか虫女様は再び腕組みをして私に解説を意気揚々と始めた。


「夢は夢でも『夢遊病』に陥るのよね。完全過ぎる形が脳内に流れ込むと人はそうなってしまう。放置すると本当に戻ってこれなくなる。貴女が助けたのよ、友人を。よくやったわ」


と私を唐突に褒めてきた。少し照れくさい。だけれども、誇らしくも思えた。だけれども、何で里美がそんな状態になったのか私は聞いてみた。すると虫女様は少しだけ考え込む動作をして話し出した。


「今風に言うと『ストレス』。何か上手く行ってなかったんじゃないの貴女の友人。『こうありたい!』という願望が強くて、無理やりに形を再現させようとした結果、この世界に落ちてきたって感じだったわね。その時あの子は楽器を手に持ってたわね。偶然迷い込んだ感じだったから私も何の処置も要らず、そのまま彼女の意識を肉体に戻しただけだから」


確かに里美は吹奏楽部で、最近上手く行っていなかった。彼女は幼いころから習っていたバイオリンが彼女のパートなのだけれど、スランプ気味で部活にも出ずらいと言っていたのを思い出した。


(なるほど、確かにこの虫女様は嘘は言っていない。あれ?やっぱりこの人って偉い人?ってか神??)


と今更ながら相手がちゃんとした神様では?と思う私だった。ただしメンタルがものすご~く弱いだけの、ちょっとアレな神様では?と失礼極まりないことを思っていると、視界の横からカンペが見えた。


『あれで、ちゃんとした神様なんですよ…あれで…』


と少し疲れた冥途の心が垣間見えるカンペの文字だった…

少しそのやり取りに笑えてしまったのだが、虫女様が含みのある言葉を吐き出してきた。


「…ただね、貴女の住んでいる地域、というか、貴女の周り?ちょっと異常なのよ。意図的にこの世界に落ちてくるような、そんなところなの。貴女と繋がって初めて気が付いたんだけれどね」


と随分真剣な顔をしながら右下を見ながら口元に手を当てて考えこんでいた。その言葉に私はぎょっとしたのだが、偶然では?と言いかけたとき、虫女様は遮るように口を開いた。


「…あなたが原因…の可能性が高いかもね。一種の磁石のようなもの。『夜に惹かれる』ように間の世界に引き込むような。貴女の特性そのものが『夜』なのよね。それもバカでかい夜の世界。そこに知らずに引き込まれてしまうのかもしれない。『本来収まる者』がいない空席に私が座ったけれど、それでも空間が大きすぎるのかもしれないわね。だからそこに無意識に落ちようとするのよ、他人が」


といきなり『お前が悪い』と言われて私は「はぁ?」と秒で喧嘩腰になった!今までのほんわか空気が一瞬にして沸騰した!!その雰囲気に冥途がカンペで『こらえて!主様!!』と只管振り続けた!


「ふ~~…で、私が悪いと?」


深呼吸をし、一触即発を何とか回避して虫女様に売り言葉かな?と言わんばかりの言葉を投げつけた。すると虫女様は特に喧嘩を始めるつもりはなく、ただ淡々と


「そうならない為に私や女中が来たのかもね」


と言った。

その言葉に私はスコーンと頭を殴られた。

(素直に認めたくはない、だけれどもこれは私への救済だったかもしれないと思うと…)

そう思いながら私は少し震える声で虫女様に質問した。


「もし!…もし、知らずに私が他人をこの世界に落としてしまったら…」


すると虫女様は一度上を見て、再び私を見て真面目な顔で答えた。


「大抵の人間は戻れない。理由は貴女の力が強すぎるから。えーと、重力に引っ張られると飛び上がっても落ちてしまうでしょ?…まあ、貴女と対峙して初めて気が付いた事なんだけれどね、これは」


最早私にとって絶望的な結論を投げつけてきた!体が動かないのに地にひざまずく私が見えた!私が元凶!そして私がこれからも見えない対人地雷的な脅威になる!と絶望した!いつから私は!元凶になってしまっていたのーーー!と心の中で叫んでいた。


そんな私に


「その為の私達、違うかしら?」

『そうですね姫様』


と私に優しい言葉と文字を送ってきた。私は震える声で


「け、契約します…私、魔法少女になります!」


と言ってしまった!頑張ってみたけれど、見える将来の絶望に負けてしまった!!

その契約締結に虫女様と冥途は目を丸くしてこちらを見た。だけれども、虫女様は


「魔法少女とは…ちがうからね…」


と残念な子を見るような目をして私に言った…



・・・・・・・・・・・・・・・


「あの娘、何ともなく現世に戻ったわね。流石は私の依り代というべきか」

私は新たな自分の依り代である白上夜風を見送り、間の世界を整頓し始めた。

もう何十年もしていなかったその作業。自分だけとなったこの世界に何の興味もわかなくなっていた。

だが今日という日を境に再び間の世界を管理することにした。


「本当に面白い子ね」


と苦笑する。そして気になっていたことを優先的にあ整頓していった。

それは彼女とのやり取りで見えてきたパズルのピース。その結果が口から洩れる。


「やはり…偶然ではない、ってことかしら」


この間の世界と夢はほぼ境界はない。

記憶、記録、事実、真実。無数に存在し、それを集めたのがこの間の世界。散らばる記憶を並べて世界の記録とする。時にその完全な記憶が形を得て外に出てしまう事もあるのだが、それはまた別の話。

結論から言うと今回に至る経緯の記憶は現世に無かった。

無かったというよりは、抹消されていると言ってもいいほど綺麗に無かった。


「こんなことが出来るのは…いいえ、こんなことになってしまったのはきっと大御神に関わる…は~~…やる気を出せばいつも厄ばかり引くわね私は…」


とボヤキながら作業の手を停めることはなかった。


「でも、嫌いじゃないわよ。本当に久しぶりね、こんな気持ちは」


と呟き、虚空に手を伸ばしながら少し口元が緩む私だった。

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それは月暈(つきがさ)が描くように優しい世界…とかいうエモいロマンがあると思うか馬鹿め! 褄取草 @tumatorisou

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