第2話 間に合ってます(だからこっちに来るな)

バアアァァァーーーーーーーン!!!


っというような効果音が背後に入りそうな精神的衝撃を受ける私、白上夜風(しらがみ よかぜ)13歳!

私の愛馬(自転車)の上で『I字バランス』をした『メイド姿のド変態』がいる!!そしてこちらに向いたメイド(変態)がウインクを一つ!私に向かって!!

絶句した…うん、そりゃ絶句するわね、こんな訳の分からない事が朝っぱらからおきるとさぁ…と逆に冷静になってしまった。

取り敢えず…その気持の悪いメイドが私のサドルに土足で立っているのが気に入らない。実に気に入らない。なので、私は突進した!!


「ううううおおおおおおおおお!!!何さらしてくれてんだあんたああーーー! ギュン! せいやーーー!!!」


自転車まで突進した勢いで急反転し、体を回すと同時に右腕を伸ばした!それは大きなプロペラとなり、I字バランスをとっている軸足に水平チョップをぶちかました!!

「ふぉ!!!」

と水平チョップがアキレス腱にダイレクトヒットした為か、メイドは変な音を口から出しながらそのメイドは宙を回転しながら地面に落下した、顔面から!

「謝れ…私の愛馬に謝れ!!」と私は地面に叩きつけられたメイド(?)を見下ろしながら言った。

虫のようにもぞもぞと動くその物体(メイド?)を見ていると事の重大さに徐々に気が付いてきた。


(あれ?これって普通にこうなると、死ぬんじゃない?人間なら??)


と一気に全身から血の気が引くのが分かった。

自分の勢いでしたことを後悔しつつ、そのもぞもぞ動くメイドに近づき「だ、大丈夫?」と今更ながらの心配をした。しかしそのメイドはもぞもぞと動いているかと思うと徐々に姿が透明になり、私の視界から消えていった。

その異様な状況に私の体温は2度は下がったと思う。顔は多分真っ青になり、そして必死に辺りを見渡した。だがそこにはメイドの姿はなく、そして自転車のサドルにも立っていない。

「な、なんなのよ…何が起きたっていうのよ…」

と震える手で自転車のハンドルを取った。そして先程まで変なメイドが立っていた自分のサドルに目線が向く。するとそこには靴跡は無く、きれいなままであった。

(でもあのメイド、靴履いていた、わよね?あれ?やっぱり夢?)

などと思いつつ、メイドが地面とキスをしていた場所をもう一度見てみると、小さな草花は踏み荒らされずに立っていた。

「夜風!何があったんだい!?」

と私の奇声を聞いたのか、玄関から祖母が心配して外に出てきていた。慌てて私は今あったことを話そうとしたが、絶対笑われると思って

「猫、そう、猫がね!自転車に乗ってて追っ払ってたの!」

と咄嗟に言い訳をした。すると祖母は「なんだい、そんなことかい。気を付けて学校にいくんだよ」と笑いながら再び家へと戻っていった。

ふひ~っと息を吐き、そして首を振って目を覚ますような動作をした。

(う~ん、疲れだこれ。取り敢えずサッサと学校いこっと)

とさっきまであったことは「ただの幻想だ、ただの妄想だ」と自分に言いかけながら全速力で学校へと向かった。


・・・・・・・・・・・・・


無事陸上部の朝練には参加でき、そして練習が終わるころには今朝のバタバタなどすっかり忘れていた。イソイソと部室から教室へと向かい親友の姿を探した。その行動の理由は勿論「宿題写させて!」である。私はまばらに登校しているクラスメイトを見渡したが、その中には【伊藤里美(いとう さとみ)】の姿はなかった。


(うぎゃー!って思ってる場合じゃあない!取り敢えず里美が来るまでは自分で何とかしなくちゃ!!)


そう思い、自分の席に座るとすぐさま宿題を取り出し、自分史上近年稀にみる速度で宿題に取り掛かった。

だが悲しいことに、行動と思考は同一レベルになることはなく、貧乏ゆすりだけはその速度に応えて最速のリズムで震えていた。


「…って何やってるのよ夜風?」


と背後から聞き覚えのある声が聞こえた。その声は天使!そう、宿題を唯一救うことが出来る天使の声だ!などと思いつつ声の方に振り向いた。

そこには物凄く眠そうにしている親友が怪訝な顔をして立っていた。


「おはよう里美!いや、里美大先生おはようございます!!! スス… ズシャー!」


『挨拶』と『ご挨拶』を里美に吐きながら、同時に教室の床に滑り込むように土下座をした。私のその奇怪な行動に、里美は多分腐ったトマトを見るような目をしていたに違いない!!と私は思った。恐る恐る、そ~っと土下座状態から顔を上げ、親友の顔を見ると…予想に反…せずにやっぱりそんな目と引きつった口元で私を見下ろしていた…ですよね~…

「…って何やってんのよホント。悪いものでも食ったの?」

とため息をつきながら優しい親友は私の肩に手を置き、優しい顔を作りながら心のこもっていない言葉を吐き出した。

そして次の瞬間、 スパーン! と丸めたノートらしいもので私の頬をしばいた!

「たげふ!!」

堪らず口から悲鳴(?)が漏れた!そして里美はそんな私を再び見下ろしながら

「サッサと写しなさい!先生がもう来ちゃうよ!」

と言いながら、先程の私の顔を叩いたエモノを手渡してきた。実に話が早くて助かる親友です、本当に…本当かな~…とちょっと疑心暗鬼になった。



写し終わった私は満足げに時計を見た。…何とか一時間目が始まる前に宿題を仕上げることが出来た。教室にもほぼほぼクラスメイトは投稿しており、朝のホームルームを待っている状態になっている。私は額の汗を拭きながら、何とか先生に怒られずに済んだ!と安堵の息が漏れた。早速隣の席の里美にノートを返し感謝を述べた。


「ありがとう里…」


感謝を述べたつもりだった。だけれどもその言葉は口の中で止まってしまった。どうしたの?と言いたげな里美が視線の先には居る。

うん、そこまでは普通なのだが、

何故か、

視界の右上に、

今朝の!あの!メイドが!居た!!それもサイズが小さく、空中に浮いている!


「いやいやいやいやいや、有り得ないって!」


と自然に混乱した言葉が私の口から出ていた。

そして条件反射のように右パンチがその小さなメイドを捉えた!…と思ったのだが、感触がない。そればかりか里美は私の急な攻撃にビックリして「ちょっと夜風!なにすんのよ!」と怒っていた!

私は状況が理解できず「え?どういうこと??」と未だ空中に浮く小さなメイドと里美の顔を交互に見た。

すると普段と違った奇妙な行動をしている私に里美が真剣な顔をして

「ねぇホント大丈夫?保健室、行く?」と言ってきた。

私は普通で、更に体調に異常はない、と自己判断していた。…ただ変なのは、里美が視界に入っている間、蠅よりも幾分大きい謎メイドが視界の右上にメイド然として立っているのだ!


(手を前にして立ってる!漫画でみたような「おかえりなさいませご主人様」のポーズしてるんですけど!この謎現象はなんなのよ!!)

口には出さないが脂汗が顔から只管流れてきていた。


「夜風!?ちょっと本当に大丈夫!?」


里美が私の体を揺さぶるのだが、視界の右上には揺れる世界とは正反対にビシっとメイドが立っていた。

最早幽霊の類では?今朝私は呪われたのでは??と思ったのだが、里美を視界から外すとそのメイドは姿を消した。そして里美を見ると、また視界にビシっと立っているメイド(小)が立っていた。

「ワケガワカラナイヨ!」

と変な声を出したところで、私の意識は途絶えた。


・・・・・・・・・・


真っ暗の中、私は横たわっていた。どうやら体は自由に動かせない。

動かせないというか、動かすのが非常に億劫に感じていた。だから動かず横たわっていた。

つまり、楽だからその態勢でいる。

そんな私を薄っすらぼんやりとした光が私の頭上に現れた。

そしてその光は横たわる私の頭の上で何か囁いている。

その小さな声を意識して聞いてみた。


「‥‥サイ」


何を言っているのかわからないのだけど、『~サイ』で言葉を終えていることが分かった。

どうも繰り返し同じことを言っているらしく、若干、かなり、鬱陶しいと思った。

永遠と続くお経のような音は、あんまりにも面倒に感じた私は


「あ~はいはい。私の邪魔をしないならね」


と適当な返しをしておいた。


するとその光は「え?マジで?」などと一気にフレンドリーな言葉と共に音量がアップした。


ホントこいつはなんなんだよ?と思いつつ私はその光を睨むように見ると、そこにはあのメイドが立っていた。その顔はビックリしているようだった。


「本当に良いんですね?言質とりましたよ!?やったーーーー!!!」


謎メイドは右腕を天に掲げながら叫んでいた。あ、マズ…っと思ったときにはもう遅かったみたいだ。

そのメイドの様は正に『我が生涯に一遍の悔いなし!!』のポーズだ。あ、こいつ、死ぬのかな?死兆星とか見えてるのかな?と私が思うぐらいだ。凄く様になっていた。…のでどうでも良くなってきた、多分コイツ死ぬだろうなと思ったので、直感で。


「では、今後もよろしくお願いします!!!」

とそのメイドが私に向かって頭を下げた。


というか私は仰向けで寝そべっているので私の顔に向かってドアップで自分の顔を近づけてくるメイド。

反射的に私の右アッパーがそのメイドの顔面を捉えた!!

「正中線!!ゲフ!!!」

とメイドはキリモミ回転をしながら吹き飛んだ。地面らしい床にメイドが激突する音を聞きながら私は


「間に合ってます」


と言うと、再び意識に靄がかかり、世界が遠ざかっていった。

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