呑気症

楓雪 空翠

たとえば

 たとえば、一人ベッドに座って、何も考えずにいるとき。扇風機の風に擦れる髪とか、急に思い出された多少の空腹とか、そういうものばかりが段々と私の惰眠を蝕む。花氷が融けるように、孤独が身体を押し潰した。

 深く、ゆっくりと息を吸い込んで、両目を瞑る。視界を閉ざせば、かえって痛みが声を荒げた。耳を塞いでも追い出すことはできず、果たしてその孤独を吐き出せないまま、空っぽの肺を空っぽの虚勢で満たした。


 たとえば、何日もかけて読んでいた小説を、不意に読破したとき。1ページだけ戻って、もう一度読み直す。本を閉じて、背表紙のあらすじを読み直す。それでも埋まらない喪失感が、カタルシスの余韻を濁した。

 物語の結末のその後とか、冒頭部分の伏線とか、それらしいことを考えた。排他的な共感装置に酔い痴れて、不完全な憧憬に依存している。それを認めたくなくて、歪な感情と呑み込んだ。


 たとえば、共通の話題を持つ友人と、取り留めもない話をするとき。胸を刺す痛みと同化した自己嫌悪は、脳裏で私を嘲笑う。凝り固まった頬は、もう笑顔を崩せない。

 首肯みたいな相槌とか、共感みたいな同情とか。私は乖離して、私は成形されていく。“私より私らしい私”に反吐が出るから、必死に堪えて、噛み殺して、全てが肺の底に堆積していった。


 そうしていつしか、私の空っぽの胸は空気でいっぱいになった。どれだけ息を吸い込んでも満たされないから、どれだけ息を呑み込んでも足らないから。息を吸って、吐けなくて、また息を吞んで、吐き出し方を忘れて。




 きっと私は、息を吸うことに疲れてしまった。

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呑気症 楓雪 空翠 @JadeSeele

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